私の母は、30歳を過ぎてから結婚した。
私にあんまり似ておらず、もう50代後半なのに美人で、痩せていて、小柄で、頭も良くて、料理上手で綺麗好きな人だ。

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私が高校生くらいの頃。婚活バスツアーを紹介するテレビ番組を一緒に見ていると、美人で婚姻歴の無い40代の女性の参加者が映った。
「こういう、美人で性格的にも問題が無さそうなのに一度も結婚していない人は、長期間の不倫をしていましたっていうケースが大半なんだよ」
実際世の中の人達がそうなのかは分からないし、番組の内容もほとんど忘れてしまったけれど、母がこう言っていたことだけは、はっきりと覚えている。

母が結婚前に不倫をしていたことを知ったのは、去年のことだ。
年代的な問題か、ネットリテラシーが薄めな母は、容易に特定できるアカウント名でその話を投稿していたのだ。フィクションであるかのように装っていたが、それは明らかに本当の話だった。
会社の同僚と不倫をしていた母だったが、30歳になる頃、急に子供が欲しくなったらしい。「私は昔から子供好きだったのに、どうして今の私には子供がいないんだろう」と急に思ったそうだ。それで、その同僚と別れて、結婚して、子供を産んだ。

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この母の文章から読み取れたのは、その同僚のことはちゃんと愛せていたのだということ。そして、父への無関心さだった。
父は当時も今も正社員で働き続けているし、見た目も特別良くも無いが悪すぎるということもないし、歳は母より4つ下だし、旦那および父親の役目を任せると考えると、及第点には達していたのだと思う。
別に驚きはしなかった。悲しくもなかった。
父は気は小さいのに態度は大きい人だ。それは昔からそうだった。子供の私たちの前で平気で横入りしたり、店員さんにクレームをつけたり。ちゃんと働いて養ってくれてはいたし、暴力とかもなかったから、「父親失格」とまでは思わない。けれど、決して尊敬することは出来ない人だ。
だから、元から父への愛情がそこまであるとも思っていなかったし、むしろ納得、ではあった。でも、「あ、本当にそうなんだ!?」という気持ちにはなった。ヤンママに離婚を報告されたときとか、ジャイアンみたいな見た目の人にいじめっ子だった過去があることを知ったときとか、多分同じ気持ちになると思う。「そうっぽいなとは思ってたけれど、本当にそうなんだ!? 意外性は無いんだけど、無さ過ぎて、あまりにも思った通り過ぎて、こんなに思った通りなことあるんだ!?って感じだわ!」みたいな。

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母の文章と、私から見た今の父母と、結果として生まれた子供である私の仕上がり。この3点から判断するに、やっぱり、大して好きでも無い人とは焦って結婚しない方が良い。
母は他の投稿で、父との生活のことを、「灰色」と表現していた。なるべくなら、生活は「灰色」じゃない方が良いと、私は思う。
それに、私。私は、大して好きでもない人と結婚してまで、手に入れるほどの子供ではない。「どんな子供でも親からすればみんな宝物」みたいな、確かにそういう部分はあるんだろうけれど。母もそうであってほしいと思うし、そうあってもらわなくちゃ困るのだけれど。私だったら、私にそこまでの価値は見出せない。これは別に卑屈になっているとか病んでいるとかではなくて、冷静にそう思う。だって、好きでもない人と結婚して生活していくことって、かなりの対価を貰えなくちゃ、割に合わない。

けれど、好きだと思って結婚しても、「こんな人だと思わなかった!」ってパターンもあるよね。そもそも、一生一緒に生きていきたいと思えるほど好きになれる人なんて、そうそういるもんじゃないだろうし。
そう考えると、結婚、全然したくなくなってくる。でも、私は仕事を生き甲斐にできるほど、バリバリしたタイプではない。今の仕事は嫌いではないけれど、人生の支柱にするには、ちょっと心許ない。没頭できる趣味もないし、無難に結婚しておいた方が良い気もする。とか言って、その前に結婚してくれる人が1人も現れない可能性もあるわけだけれど。

こんなひねた考え方をせず、好きな人、好きなものにまっすぐ向かっていける人間を育てるには、やっぱり、好き合って結婚するに越したことはないんだろうなあ。