デート代は男性が払うべきか。それとも割り勘にするべきか。世代や育った環境で、価値観は大きく違うだろう。
女性の社会進出を掲げ、働く女性が増えた平成の時代。変化を体感しながら、その時代を生きた私の答えは、「女性も払うべき」。そう、おごられるのが大の苦手だった。男性と平等の権利を主張するためには、まず経済的自立が必要だという考えが、無意識のうちにあった。払ってくれるのは好意があるから、という捉え方もあるだろうが、借りを作ったようで心がざわついたし、次の誘いを断りにくくなった。それが15歳上の彼と付き合い、結婚してからというもの、彼の前では財布を出さなくなった。ありがとうの一言で清算する。
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彼と出会ったのは、ちょうどコロナが流行し始めた2020年春だった。最初のデートは、人気のない山奥の神社までドライブし、テイクアウトした弁当を県庁の展望コーナーで食べるという、色気もムードもなかった。世間が人との接触を制限していた緊急事態宣言下、誰にも見られまいと気を張りながら過ごした。
本当は、デートしない選択が正しいと分かっていた。もし、コロナに感染したらどうしよう。親しい同僚や友達とですら食事や飲み会を控えているのに、出会ったばかりの彼と二人きりで出かけるなんて。自分中心な行動で、周囲に迷惑をかけてしまうのでは。迷いはあったが、気持ちに嘘をつきたくなかった。初対面から、なぜか心を開けた相手。彼ほど安心感を得られる人とはそうそう巡り合えない。親しくなりたい。衝動にかられた。
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勇気を出したおかげで、お酒が好きという共通点が判明し、居酒屋デートを約束できた。宣言が解除された数日後、早速実現した。最初は緊張したが、お酒が進み、話も普段以上に弾んだ。あっという間に閉店の時間を迎え、店員さんがお会計伝票を持ってくると、彼はさっとカードを渡し、私に店を出るよう促した。これまでいろんな男性とデートし、ごちそうになったことはあったが、どこか得意げな表情がうかがえた。上下関係が成立した感覚があった。彼は違った。
順調に関係が進展する過程で、さらに驚きがあった。彼は一緒にいる時、私の半歩後ろを歩く。店に入る時や車に乗る時は、少し早歩きして前に出て、扉を開けて私を通す。働きたい私の思いを優先し、私の仕事が終わるまで夕食を待つ。大切にされていると思えた。きっと、彼が年を重ねているから、とか、昭和生まれの人だから、というだけではないだろう。そんな彼は普段、自炊をしないと知り、私は手料理を振る舞うようになった。きれいでいたいという思いが強くなり、自分磨きにも一層力をいれるようになった。
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私、本当は女性として扱われたかったんだ。これまで男性に負けたくないと、頑なだった自分の本心に気付いた。本当の男女平等って、女性が男性と同じ役割を担うことではないのではないか。対等でありながら、お互いの立場を尊重する。デートのためにおしゃれをしたり、おいしい料理を作ったり…。できることをやればいい。決して、おごられて当然という話ではないし、女性が家事をするべきだとも思っていない。まだまだ男社会の現代、対等な立場を実現するため、女性として大切にされる行為を受け取るのにためらう必要はないのだ。逆境に抗い、決行したあの日のデートがあったから、私は変われた。
昨年、娘が誕生し、旦那には愛でる女性がひとり増えた。「大きくなったら、パパとデートしよう」。0歳の娘に話しかける彼の背中を前に、私は将来、娘にこっそり教えようと心に決めている。「女性を敬える男性を見つけなさい。お父さんのように」と。