「逃げるは恥だが役に立つ」
何年か前に流行したテレビドラマだが、このタイトルに救われることになるとは、「逃げる」を選ぶまでは想像できなかった。

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このテレビドラマが放送された年に、自分は新卒として希望部署に配属された。
同期は自分含め女性3人。ともに配属された部署に関心があり、「将来バリバリ働けるキャリアウーマンになろう!」なんて冗談を言いながらも、毎日懸命に働いていた。

この時までは。

その年の7月に当部署の残業時間が多いことを知り、毎日夜遅くまで仕事をした。

夜に仕事が終わらないために、朝早く出社して「サービス残業」も隠れてやっていた。
またその時期より自身の仕事のミスが目立ち始めた。最初は先輩への報告し忘れから、次第にミスの規模が大きくなり、顧客を怒らせてしまい上長が自分に代わり謝罪する、のような会社全体にも影響を与えてしまうこともあった。
もちろん反省はしていた。しかし先輩からはその態度が見受けられないと判断され、仕事を教えてもらえなくなってしまった。

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憧れだった部署に入職し、バリバリ働いて会社や顧客に貢献、資格もたくさん取得しゆくゆくは管理者として周りから憧れる人となる……、自分の浅はかな理想が日に日に壊されていく感覚になった。

長時間勤務や同僚との不仲、さらに同期が体調不良を頻発し欠勤が続くなどが起き、自分の身体も壊れていった記憶がある。
覚えている限りだと、夜遅く帰宅し仕事に対する怒りを一人暮らし先で爆発したのだろう、朝起きたときは部屋が滅茶苦茶になっていた。なぜかわからないが、菓子パンのクリームが天井に飛び散っていた。おそらく食べ物までを武器化したのだと思う。

その状態が続き1月に職場でパニックが起き、うずくまってしまった。その時偶然通りかかった方に助けてもらえたが、その時すでに「自分が何者か」がわからなくなってしまっていた。
その時ふと思い浮かんだのが、当時観ていた「逃げるは恥だが役に立つ」の題名だった。
「逃げる」の意味がネガティブなので、当時嫌いな言葉であった。しかし、「置かれている状況や場所にしがみついている必要はない、自分の得意なことが活かせる場所へ行こう」というポジティブな意味であることを知り、自分の状況を見直した。

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「もう逃げよう」
その思考になってからの行動は早く、部署異動を申請。上長も別の分野で頑張ってほしいと考えていたそうで、表面上は異動命令という形で別部署での仕事が決まった。
同期からは「嘘つき」と吐き捨てられ、それ以来話してくれなかった。
しかし今振り返ると、他人にそのように言われても「自分の人生を決めるのは自分」であり、「逃げる」を選んだことを評価している。

「逃げるは恥だが役に立つ」
今も心が壊れそうになった際は、この言葉を思い返すようにしている。
この言葉のおかげで、今自分は新卒時代のように自己破壊することもなく生活している。

私は未熟者でアドバイスしてよいものかわからないが、今年新卒の方に一言、「逃げる」ことは決してネガティブではない、むしろ自分を賞賛できること。
私もこれからも「逃げる」し、それを勇気ある行動として賞賛し続けるだろう。

これからのご活躍、お祈りいたします。