その日、とある観光地に日帰り旅行に出かける予定だった。
レトロな街並みが立ち並ぶそこで、着物をまとって食べ歩きをする。絶対に行きたい場所と、食べたいものを数個決めて、レンタル着物屋さんもばっちり予約。その後も当日まで、SNSで観光地のハッシュタグを何度も調べてしまうくらい、私はデートを楽しみにしていた。

◎          ◎

目的地まで車で片道約2.5時間。運転するよと言ってくれたお相手を心配しながらも、ここは素直に甘えることにする。

「じゃあ当日の朝、家まで迎えに行くね」
「ううんそうすると遠くなっちゃうし、あなたの最寄り駅まで私が行くよ」

ただでさえ短くない運転時間を、私はこれ以上増やしたくなかった。お相手のみが、次の日仕事を控えていたため余計に。私の家に寄ると少し遠回りをする形になって、片道+30分も運転する時間が増えてしまう。やっぱり私は、大事な人に私以上にデートを楽しんでほしいし楽しませたい。少しでも疲れた思いを減らしたいし、次の日辛い思いをできるだけしてほしくない。

けれどあなたは言った。
「手作りのケーキを渡したいから、嫌じゃなかったら迎えに行ってもいい?」

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手作りのケーキ。それは私の誕生日を祝うもの。
先日私は誕生日を迎えたが、お互いの都合からメッセージのみのやり取りで、一歳大人になってから会うのは、今回が初めてだった。

返事はYes一択。

――こんな愛おしいお願いを、断れるわけないじゃないか…!

綺麗にラッピングされた手作りのスフレケーキを持って現れたあなたに、私はどんな顔をすれば良いのかわからなかった。
喜びやうれしさ、驚きを思いっきり外に出せる人間と、そうじゃない人間がいる。私はどちらかといえば後者だ。味わっているうれしさと同等、もしくはそれ以上を、リアクションで相手に返せているかわからない。自分の感情が、きちんと外に出せているのかがわからない。うれしければうれしいほどに、それは難しくなるから厄介だった。

「すごくうれしいんだけど、私ちゃんと喜べてる?」
「もちろん。こちらこそそんなに喜んでくれてうれしい。ありがとう」

こういうところが好きなのだ。
出会って10年目。スイーツ作りが好きな大切な人は、私の誕生日に可能な限り手作り○○を贈ってくれる。ティラミス、プリン、ケーキ――。忙しい日々のなかで、スイーツをプレゼントの一つとして作ってくれるのは、愛されているなと思う。
「自分があげたいだけだから」いつものあなたの台詞には、あなたの優しさが存分に詰まっている。

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本題のデートの話をする。
この日私は一生分……とは言わずとも、飛んでもない量の「可愛い」をその人からもらった。着物を着て「可愛い」。写真を撮って「可愛い」。
可愛いね。素敵だね。着物も似合ってるね。なんでそんなに可愛いの?可愛すぎるね。可愛すぎて可愛いって言うのさえ失礼だよね。世界で一番可愛いよ確実に。

大好きな人にこんなに褒められて、嬉しくない人なんてどこを探したっていない。
私もお返しに素直に全部口に出すことにした。いつも恥ずかしかったり悔しかったり、つい言わないで閉まっておいてしまう言葉を全部。

最初は褒められると律儀に照れていた私も、そして大切な人も、高まっていく肯定感とうれしさ、そして着物マジックに後押しされて、早々と言われた「可愛い」を全て受容しはじめた。

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「可愛いね」「知ってる」
「似合ってるね」「当たり前じゃん」
「今私たちが世界のツートップだと思う」
「酔ってる?」「酔ってるよ、あなたに」

すれ違った女の子が可愛くて、自分が可愛くなくて、落ち込むことがたまにある。
思うようにいかなくて、なりたいようになれなくて、他人の可愛さに僻むことも、怯えてしまうこともある。
私は私を好きなはずなのに、上手く愛してあげられない日もある。

けれど私はあなたといると劣等感もコンプレックスもすべて忘れて、最強になれる。
比喩ではなく、本当に。向かうところ敵なし。
現役女子高生も私たちに道を譲ってしまうくらいには無敵だ。

大切な人も、そう思ってくれてるといいな。 

これは恋人なんかになってしまうのが勿体ないほど、愛おしくて大切な。
そんな女友達との最強デートの話。