ある時突然、仕事に行けなくなった。
朝、身体が動かない。起き上がれない。
起き上がれたとしても足に力が入らない。
◎ ◎
なんとかして通勤列車に乗る。
いつもと同じはずなのに、吐き気がひどい。
会社の最寄り駅に近づくにつれ、動悸が止まらない。
腹痛もひどくなる。何度も途中を下車する。
好きなアーティストの音楽を聴いても気分が悪い。
なにがトリガーになったのかはわからない。
上司にキツく言われることもあったけれど、うまく受け流せるようになったし、大きな仕事を任されて、全うしたつもりだ。
けれど、社用スマホのバイブレーションが鳴るだけでドキッとしたり、テレワーク中も変に焦りを感じ、頭も回らない。眩暈がする。食欲もわかない。耳鳴りがする。
◎ ◎
夜、眠れなくなった。寝たら明日が来てしまうからだ。
寝ても悲しい夢を見て、起きたら泣いている。
金曜の夜は嬉しい。日曜の夜は悲しくて眠れない。
心療内科にいった。睡眠導入剤と抗うつ剤を処方された。
それでも良くならない。
もう、限界なんだろうな、と思った。
けれど「仕事を休む」という選択肢をすぐに選べなかった。
「社会人3 年目で休むなんて」
「周りになんて言われるんだろう」
「甘えと思われるんじゃないかな」
「評価が下がるんじゃないかな」
「休んでいる間のお給料はどうなるの?」
「戻る場所があるの?」
「戻った場合、私を必要としてくれる場所はあるの?」
たくさんの葛藤があった。自分のプライドもあった。
思い描いていた社会人生活じゃない。
もっと、もっと仕事を頑張るはずだった。
心身ともに健康で生き生きと働いているはずだった。
◎ ◎
上司と何度も面談をした。家族と何度も話した。
「もう十分頑張っているよ」と言われた。
その言葉を聞いて、ホッとした。
「ああ、そうか。私って十分頑張っていたんだ」と気が楽になった。
まだ入社3年目で若手は私一人の部署。
右も左もわからず、気軽に相談できるような先輩もいない。
わからないなりになんとか過ごしてきた。
その一言で今までのことを認められた気がした。
氷のように冷たく張っていた身体が熱で溶けた気がした。
知らず知らずのうちに自分で自分を奮い立たせて傷つけていたんだな、と思った。
そうして選んだ「仕事を休む」という選択肢。
自分を守るために選んだもの。
逃げたからこそ、勇気ある決断ができた自分のことをまた少し好きになれた気がした。
◎ ◎
仕事から逃げることを「甘え」と思わないでほしい。
もしそんなことを言う人が周りにいるとしても、「ああ、雑音がひどいな」で流してほしい。
私も当初そんな外野の声が聞こえてくるのが怖くてしかたなかったが、今思うと自分の身を自分で守れる人が1番強いのだと感じる。
社会の評判を気にしたり、仕事のことばかり気にしてボロボロになってしまった自分は可愛くない。
よく見ると着込んだ鎧や武器はもう使えなさそう。
もっと自分を好きでいるために、かわいくて強い自分でいるために、私は社会から逃げる決断をした。