Twitter、Instagram、Facebook…
様々なプラットフォームで、ありとあらゆる情報があふれ返っている。私自身は主にTwitterしか使っていないものの、スクロールすればするほど流れ込んでくる情報の量に、時折酔いそうになる。そのせいなのだろうか、SNSはどちらかと言うとあまり得意ではない。
それなのに、気づけば白い鳥が飛ぶ青のアイコンに指で触れている。あまり良くない手癖だな、と思う。

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SNSではないが、Twitterのほかにもよく開くアプリがある。
多種多様なレシピが掲載されている、某料理動画アプリ。もう1つ、作り置きにおすすめなおかずのレシピサイトにも頻繁にアクセスする。夕食のメニューや夫のお弁当用作り置きおかずを考えるにあたって、私はこの2つのコンテンツに日々お世話になっている。

本当のところは、冷蔵庫を開けてそこにある食材や残り物をチェックし、「今日はアレを作ろう」とパッとひらめくような主婦になりたかった。レシピも何も見ず、手際よく食事の支度を進めてみたかった。しかし、一人暮らし時代から今に至るまで、料理の際には必ずスマホの画面が明るく灯っている。レシピを見なければ未だに何も作れない。

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ほぼ毎日キッチンに立ち、そのたびに例のアプリやWebサイトを開く。
料理自体は、それほど苦ではない。自分のためだけに作るのであればやる気は半減すると思うが、家族のためなら当たり前のようにエプロンを身につけ、いくらでもフライパンを振るえる。

仕事が忙しいせいで平日の家事がほぼ私に任せきりになっていることに対して、「ごはん、もうちょっと手抜いてもいいんだよ。まりちゃんだって大変でしょ」と夫は言う。その言葉はありがたいものの、食事だけはできるだけしっかり作りたいというポリシーがいつからか自分の中で大きな存在を占めるようになっていた。

とはいえ、だ。
ほぼ毎日となると、確かに楽ではなくなってくる。なるべく工程の少ないレシピを選んで時間的ロスを最小限にするようには心がけてはいるものの、それが日々積み重なるとどうしても作業化してきてしまう。「楽しい」という感覚が、少しずつ欠けていく。効率に重きを置き始めると、どこか似たり寄ったりな食事が繰り返されていく。レシピを紹介してくれるコンテンツの存在は切っても切り離せないものだけれど、アイコンをタップする指先から日に日に軽やかさが失われつつあるのは否めない。

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これはまずい、と、私は小さな危機感を覚えた。
そんなときにふと思い出したのが、Twitterのタイムラインで見かけたとあるレシピだった。

昨今の仕様で、フォローしていないアカウントの投稿もタイムライン上によく流れてくるようになった。何気なくスクロールしている中で目に留まった、ささみを使ったレシピ。料理系インフルエンサーのツイートだった。

ささみを観音開きにして、中にさけるチーズを入れる。その後ささみを元の形に閉じ、片栗粉をまぶして両面を焼く。調味料をあらかじめ混ぜておいた特製ソースを回しかけ、煮絡める。
このソースの詳細な内訳は割愛するが、おそらくミソは「オイスターソース」と「カレー粉」だ。

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他の料理系コンテンツでは、あまり見たことのない料理だった。そして私は生粋のチーズ好き、夫はこってりした味付けが好みなうえに、毎日食べてもいいと豪語するくらいのカレー好き。夫婦それぞれの食欲を刺激するであろう、ちょっぴり斬新な料理。

他にも、Twitter上で見かけて気になった料理は、ツイートをブックマークするようにしている。ただ、アプリを閉じてしまうとブックマークの存在はするすると記憶から薄れてしまうのが常だった。少なくとも、キッチンに立つ際にはもう忘れている。

例のささみ丸焼きレシピが載ったツイートをふいに思い出したエプロン姿の私は、Twitterを開いて目の前に置いた。我が家のキッチンはシンク近くに出窓がある関係で、壁際に物を置ける造りになっている。100円ショップで買ったスマホスタンドが、キッチン用としてそこにはいつも鎮座している。

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普段お世話になっているレシピアプリではなく、Twitterを開きっぱなしにしながら料理を進めていることが、新鮮だった。6本のチーズ入りささみをフライパンでソースと共に煮詰めながら、静かに高鳴る胸の内。

「何このおかず、初めて見た」

興味津々な様子で、食卓の中央に置かれた大皿を見つめる帰宅後の夫。よし、ファーストリアクションは上々だ。
いただきます、と声を揃え、エスニック系の匂いが漂うソースを纏ったささみにぱくりと各々かぶりつく。程よいところで一旦口から離そうとすると、中のチーズがびよーんと勢いよく伸びた。

「え、めっちゃ美味くない?」
「わかる。これは美味しいね…!」
「すげえ俺好み」

パサパサしているイメージがあるささみだが、濃いめの味付けのおかげか、淡白さは全くと言っていいほど感じられない。かといって飽きがすぐに来るような重さもなく、あくまで主役はささみだから思っているよりあっさりしている。

あっさりとこってりのバランスが絶妙なそのおかずを夫は大層気に入り、「これヤバ」と何回も呟いていた。あくまでレシピの存在あってこそではあるものの、自分が作ったものを美味しい美味しいと言いながら食べてくれるのは、やっぱり何度経験しても嬉しいものだ。

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事件、というほど大仰なものではない。それでもこの出来事は、SNSによってもたらされた、日常の中のちょっとした刺激ではあった。楽しい事件、とでも言おうか。

意外な食材の組み合わせであったり、少し風変わりだったりするレシピが目に留まることがよくあるSNS。Twitterのブックマーク一覧には、まだ作ってみたことのない料理の投稿が数多く眠っている。

良い手癖ではない、と思うこともあるけれど、キッチンに立つ時は、もっとTwitterを意識して開いてみてもいいのかもしれない。

そこには、いつもの料理にちょっと変化をつけて楽しませてくれる予感漂う、そんなスパイスが並んでいるのだから。