お酒の場はとかく暗黙のルールが多い、と私は思う。だからそういう場では、ついつい私の意地っ張りな部分が強く表れてしまう。

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私のこの意地が生み出されたのは、きっと大学2年の頃だ。その夏私はインターンシップとしてタイの空港で働いていて、研修の最終日に現地の日本人スタッフの方たちが打ち上げのようなものを開いてくれた。他のインターンシップ生は全員3年生で私が一番年下であり、その時私は未成年だった。

お喋りに耳を傾けながら、記念にと注文してくれたタイならではの料理を一つ一つ味わっていた時、その言葉が聞こえた。
「ハズレさん、○○さんのグラスもう空いてるよ」。
少し離れた場所に座っている先輩からだった。

「え、だから?」
口には出してないけど、これが私の率直な答え。グラスが空になっているのなんて見れば分かる。頭の中が???で埋め尽くされている間に、すぐさま近くの先輩たちが「お注ぎしましょうか?」「違うもの頼まれますか?」と、その男性に声をかけていた。

きっとこの対応が正解なのだろう。お酒の場に慣れていなければ、ましてや目上の方との食事なんてほとんど経験したことない私は、自分の無知と至らなさが恥ずかしくなった。と同時に、お酒の場での暗黙のルールを思い知らされた瞬間でもあった。

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それから私は成人をえ、社会人になって飲み会を重ねていくうちに、何が暗黙のルールであり、どれが気配りや配慮となるのか自分の中で選別するようになった。

例えば、「近くの人のグラスが空いていた場合」。
メニューを見せたり、次に何を飲むのか声をかけるのは、気遣いだからやる。でも、お酌はしない。

次に、「乾杯でのシーン」。
乾杯する時に、目上の人よりグラスの位置を下げての乾杯は礼儀としてやる。でも、一杯目だからとりあえず全員ビール、には従わない。

他にも、特別な用事がなければ基本的には参加する、けど二次会には絶対参加しない。誰とでも楽しくお喋りする、けど連絡先やSNSは教えない。いつもはワンピースやタイトな服装が好きだから着る、けど飲み会の場では着ない。などなど、回を重ねるごとに自分ならではのルールが確立していくようになった。

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もしかしたらこんな考えに、否定的な意見を持つ人もいるかもしれない。でも、私からしても不思議なのだ。誰得でこんなにも謎ルールが多いのか。グラスが空いたのなら自分で好きなお酒を好きな分だけ注げばいいし、まとめて注文した方が楽だからと飲めないビールを頼んで、残して困るのはお店の方ではないか。

幸いにも私の職場の飲み会は、そういったルールを強要する雰囲気や面倒な人はいない。手酌で好きなように飲む人ばかりだし、私にも好きなように飲ませてくれる。二次会に行かなくても嫌な顔をする人はいないし、楽しい雰囲気のままあっさり解散してくれる。

でも私の周りでは、その不文律のせいで飲み会が面倒くさい・参加したくないという人の方が多い。そして圧倒的に、その面倒ごとを内心は煩わしく思いながら、涼しい顔してやりきる人ばかりである。私には無理だ。私は自分の意志と違うことを嫌々やると、顔や態度に出てしまうタイプだからだ。

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そもそも私は、職場の飲み会くらいでしかアルコールを摂取しないほどお酒に興味がないし、家族や友人とお酒を飲む機会も数えられるほどしかない。だからお酒を飲まないとやってられないとか、シラフじゃできない話とか、全くもって共感はできない。

もちろん職場の飲み会で同僚との距離が縮まったり、新しい一面を知れて楽しいと思う時もあるが、それ以上のデメリットが多すぎる。ただでさえこの暗黙のルールに辟易するというのに、上司のセクハラまがいの言動、下品なお金の話や職場の人の容姿いじり、プライベートすぎる話題の自然な回避、酔いすぎた人の介抱……考えたら止まらなくなるので、ここら辺で止めておく。

そりゃこんなにもタイパを重視する若者たちが、アルコールや飲み会から離れていくのは当然の結果だろう。一人で家でYoutubeやTiktokを観ている方が、どう考えても時間を有意義に使えるはずだ。

自分のものは自分で頼んで、人が嫌がってることはしないで、自分の足で家まで歩く。成人なんだからそれくらいしようよ、大人の皆さん。