夏が終わって涼しくなったら、今年はプリンを作りたい。

手段が目的で、手段によって達成されるゴールは目的でないことがある。
どういうことかというと、例えばレインブーツのデザインが気に入り、一目惚れして購入した場合。
本来は、雨の日も快適に過ごすという目的のために、足元が濡れるのを防ぐ手段としてレインブーツを購入する。しかし、レインブーツを気に入ってしまったら、それを履きたいがために、嫌いな雨の日が待ち遠しくなってしまう。この場合、雨を避けるというゴールは、どうでもよくなっている。

これと同じような現象が、私と新オーブンとの間に起きていた。

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先日、家にあったオーブン兼電子レンジが壊れてしまった。大学院生である私よりも高齢な機械だったので、立派な大往生だったと言えるだろう。
今まで使用していた旧オーブンは、オーブン機能もレンジ機能もタイマー機能も20年以上使用できて申し分なかった。愛着も湧いて、廃棄する時は名残惜しさを覚えた。
そのため、次のオーブンは旧オーブン以上に愛することのできる1台を求めたいと思い、機能を吟味した上で、新しいオーブン兼電子レンジを父に買ってもらった。旧オーブンは水を張ることのできる場所が機械になく、湯煎焼きができなかったのが欠点だった。そこで、新しいオーブンはスチーム機能が付いたものにしてもらった。

しかし今現在、まだ1回もスチーム機能を利用していない。湯煎焼きが必要な料理をあまり知らないせいもある。また、夏の暑さのせいでもある。夏で火を使うのが億劫になると、電子レンジの機能は活躍してもらっている。しかし、熱々の料理を食べる気も失せ、オーブンを使う頻度は減ったので、スチーム機能を使う機会はますます遠のいた。
本来は、蒸し料理を作りたいという目的のもと、スチーム機能付きオーブンを購入するのだろう。しかし、スチーム機能付きオーブンを手に入れるというのが目的になってしまった私にとって、作りたい料理がなかった。
気温が下がれば、熱々の料理を作るのも食べるのも苦でなくなる。せっかく父にプレゼントしてもらったのに、オーブンを活用しないのは申し訳ないし、秋になったら何かスチーム機能を使って、料理を作ろう。そう考えて、何を作ろうかしばらく悩んだ。そして思いついた料理がプリンである。

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プリンは好物の1つだ。クリーム感たっぷりで、ゼラチンで固めたとろんとろんのプリン。卵の味を濃厚に感じる、素材を大切にした昔ながらのプリン。表面の焼き加減とカラメルのほろ苦さが心にしみる焼きプリン。卵を使わずに、牛乳の甘さが最大限に活かされた真っ白に輝くミルクプリン。生クリームにかわいいサクランボを添えてフルーツで飾り付けたアラモード。はたまた、チョコプリンや抹茶プリン、かぼちゃプリンなど、味の付いたプリン。
すべて「プリン」ではあるが、そういって一言でプリンと片付けてしまうのはもったいないほど多種多様のプリン。その全部を私は愛している。どのプリンが一番好きかを決めることはできない。すべてに別々の魅力があって、どれもおいしいのである。
今まで、柿を利用して冷やし固めるプリンは作ったことはある。鍋でプリンを作ったこともあった。しかし、蒸し焼きでプリンを作ったことはない。
新オーブンでの1つ目の湯煎焼き料理は、これだ、と思った。秋はプリンを蒸して作ることにしよう。

プリンがうまくできたら、砂糖と牛乳を出汁と水に変えて、茶碗蒸しを作るのはどうだろう。秋の味覚として、銀杏も入れて。
まだ使っていないスチーム機能に、早くもワクワクし始めた。