21日間、1人で東南アジア各国を周った。

ベトナム滞在8日目。南部にあるホーチミンに向かった。ホーチミンは大都市であると噂では聞いていたものの、想像以上にビルが多く、バイクの量も桁違いだった。基本的に、移動手段は安価なバイタクだった。バイタクの魅力はなんといっても、風を切る気持ちよさ。できればずっと乗っていたいくらいだ。

◎          ◎

悲劇は突然襲ってきた。
翌朝、バイタクに乗り、念願のサイゴン教会に訪れた。
しかし、教会は修復作業中であり、本来の姿を観ることはできなかった。

「教会はいま、修復作業中なんだよ〜。ここ以外にも沢山観光地あるし、日本人も沢山ツアーに参加してくれてるし、料金は自由だよ」
日本語を流暢に話しながら笑顔で話しかけてきたのは、ベトナム人のおじさん。多くの日本人が書いたメッセージノートも見せられ、ぼったくりと気付かず、すっかり信じ込んでしまった。

ツアーはバイタクでホーチミンのおすすめ観光スポットを周るといった内容だった。
タンディン教会にフックハイ寺、ビル街など素晴らしい名所を案内してもらった。
そして、お昼ご飯の店に到着。明らかに高価な、観光客向けではない様子だった。

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私はとにかく好き嫌いが多い。不幸なことに、苦手な食べ物ばかりが出てきてしまい、1口も食べられない始末。一方、バイタクのおじさんは終始笑顔で食べ続けていた。ツアー料金を支払おうと思い、声をかけると、提示された金額は1万5000円。しかも、日本の紙幣で払えという。素直で断れない典型的な日本人であったため、素直に支払ってしまった。

「高額なお金を払い、バイタクおじさんに食べられないジャンルの高級店に無理やり連れてこられ、3時間ほど、笑顔で食べ続けるおじさんの接待をする」という状況であった。

こんなにも苦痛なことはない。そして何より、旅の資金が一気になくなってしまった。
日本人の優しさが仇にされているという悔しさと、今後の不安で眠れなかった。
しかし、このままでは残り10日間、十分な生活ができなくなってしまう。取り返す以外に選択肢はなかった。

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翌日、気を取り直し、観光再開。
資金がなくなってしまったため、徒歩移動で街を散策していた。
その時、昨日ぼったくったバイタクのおじさんに遭遇。
新たな日本人観光客2人を相手にぼったくりをしようとしていた。

日本人の方に昨日の出来事を説明したところ、彼女たちも同じ手口で騙されていたことが発覚。そして、一緒にお金を取り返すことに協力してくださった。現地の方々も仲介に入ってくださり、なんとかボラれた金額を取り返すことに成功した。現地のあたたかい方々、偶然出会った日本人の方に助けられ、心の底から感謝している。

気づけば時刻は夕方になっていた。
暑さと、ぼったくりの件でヘトヘトになり、偶然見かけたカフェに入った。
そのカフェは、『自由』そのものだった。
おおらかな店員さんに、楽しそうな現地の学生たちで賑わっていた。
そして、グリーンスムージーが身体を癒してくれる。
自分の思うままに過ごすことができる、最高の空間だった。

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すっかり癒され、夜景を観に行こうと退店。
しばらく夜道を散歩し、最後にもう一度あのカフェを訪れた。

すると、店員さんは嬉しそうな顔で、話しかけてくれた。
「また来てくれたなんて嬉しい」
そして、偶然いた日本語が上手なお姉さんも話しかけてくれた。

「日本人ですか?日本に留学していました。日本が大好きで、日本語を勉強しています」
あまりにも居心地が良く、素敵なお店だったので、つい、また来てしまったと伝えた。
すると、「ここは自由な空間だから、のんびりして」と言ってくださった。
最後には記念撮影をし、お店のSNSも交換させていただいた。

最高の居場所と素晴らしいドリンク、素敵な人々に出逢い、胸がいっぱいになった。

この出来事以来、悪いことの後には必ず良いことが起こると信じている。
神様から、最高のプレゼントを受け取った。