ブラックホールの東京に落ちた友達へ。スルーされても地元で会いたい
この記事では、性被害の描写があります。サバイバーの方はスキップされたほうが良い可能性があります。あらかじめご了承ください。
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体が動かない。声も出せない。心臓がやけに体中に響く。
そのくせ脳内はいろんな思考がぐるぐる駆け回っていた。
次は何駅だっけ?目的地まであと何駅?
こういう時ってどうしたらいいんだっけ?落ち着け落ち着け。
5年前。東京。何線だったかはもう覚えていない。
就活真っ只中の私は、面接会場に行くため電車に揺られながら頭の中で質疑応答の準備をしていた。
集団面接は割と得意な方だと気を緩ませながら、それよりも見慣れない景色や馴染みのない路線の乗り換えの方に緊張していた。
……え、今当たった?いや、思い違いかも。多分気のせい……じゃない。
明らかに痴漢されている。血の気が引いた。怖いし、気持ち悪いし、早く逃げたい。
犯人を捕まえるよりも面接に遅刻したくない一心で、パニックになりながら予定通り面接会場に私は着いた。
後日、お祈りメールが届いた。別に第一志望だったわけじゃない。単純に面接で落とされただけかもしれない。けどショックだった。
後から、SNSで就活生を狙った痴漢が増えていることを知った。痴漢されても被害者は時間がないから泣き寝入りして、犯人は捕まえられにくいのが理由だとか。
東京はこれが日常茶飯事なの?
そもそも私は、今まで一度も東京で暮らしたいと思ったことがない。
正直明確な理由もないから、東京出身や在住の人にはほんとに申し訳ない。ただ空港で働くのが夢になって「やっぱり羽田とか成田がいいの?」と聞かれても、東京ひいては関東地方に住むイメージだけは出来なかった。
何故だろう?日本上陸のお店は大体東京に一号店ができるし、イベントも大抵東京で行われる。テレビで紹介される美味しそうなお店も、あまりメディアには出ないアイドルのライブも、インフルエンサーのポップアップだって、どれもこれも東京だ。妬み嫉みだと言われればそうかもしれない。じゃあ住めばいいじゃんって自分でも思うけど、家賃は高いし、実家には帰りづらくなるし、どこに行っても人だらけできっと自分には合ってなさそうだ。
高校卒業後の春。仲が良かった友達の半分くらいは東京に進学した。
その頃はなんとも思っていなかった。実際変わらない頻度で連絡は取りあっていたし、長期休みになる度いつ帰省するか調整して地元で会うのが当たり前だった。成人式の写真も見せ合ったし、就活のリアルな状況も報告して励ましあっていた。
いつからだろう?そんな関係が変わったのは。
気付けば誕生日以外で連絡を取ることはなくなった。むしろ、いまだに誕生日おめでとうラインを送れる友達もごくわずかだ。社会人になって帰省するタイミングも合わなくなったし、いつのまにか結婚していた友達もいる。前に聞いた仕事を今も続けてるかあやふやな友達の方が多いし、向こうも同じことを思っているだろう。
社会人になって、生活のスタイルや交友関係が変わるのは当たり前だ。
それでも同じ県外に出た身であっても、東京に行った友達とはこれからどんどん関係が薄くなっていきそうだ。
現に関係が変わっている例として、「帰省したら会おうよ」が口癖だった友達は、なぜか東京に来てくれたら遊ぼうといったスタンスに変わってしまった。「地元で集まろうよ」と言ってもスルー。「私のとこにも遊びに来てよ」は言えなかった。どうして東京に来てもらうのが前提なんだろう?独り身の私はまだいい。でもママになった地元の友達は、「会いたいけど、もうあの子とは難しいかな」と寂しそうに呟いていた。
同じインドア人間として、コロナ禍を謳歌していた友達。今ではインスタを覗けば、高級ホテルのナイトプールや会員制のバー、お洒落なレストランなど毎日のようにストーリーが更新されている。
会うたびに「地元に帰ろっかな~」と東京の愚痴をこぼしていた彼女も、もういつから地元に帰ってないか分からない。
彼氏が地元のまま遠距離恋愛していたあの子も、東京で新婚生活を送っているようだ。
東京はブラックホールみたいだ。
一度吸い込まれたら、戻ってこられないのかもしれない。
正直私も地元に戻る気は今のところないけど、それでも東京に行った友達よりは地元愛が強いと思う。これは完全な偏見だけど、気になるインフルエンサーやユーチューバーが東京以外の在住だと知ったら、それだけで少し好きになる。
ブラックホールに落ちていった友達へ。
今も変わらず好きで会いたいけど、不自由のない暮らしができているんだったらそのままでいいよ。
でも願わくば、いつかまたあのファミレスで集まれますように。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
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