会社の帰り道の商店街で見知った顔を見つける。一年前、毎月通っていたプライベートエステサロンのオーナーで、私より3,4こ年下の少し派手な見た目の女の子。

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ゲームセンターからぴょこぴょこ出てきた彼女は、外で待っていた彼氏と思われる男性に何かを報告し、楽しそうに2人で歩いていく。

彼女のエステサロンに通っていた頃、施術後のティータイムで彼氏について少しお話をしたことがある。変わらず同じ方だろうか。あの時は彼女の見た目もあって、少しやんちゃな彼氏を想像したが、見かけた方は穏やかで優しい顔つきをした年上男性だった。

エステを通しての関わりしかないが、今まで見たことがないくらい彼女の表情も放つオーラも穏やかだった。私のどんな一日よりも、彼女達の今日が穏やかだと思った。彼女達の後ろ姿を目で追いながら、そんなことをぼんやり考えた。

あとで彼女のSNSを見ると、今日は彼女の二次元の「推し」の誕生日なのだそうで、推し活をしていたらしい。そうか、だから尚更あんなに穏やかだったのかもしれない。

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それから20分ほど歩く。

20分の間に私の腕には、大きく膨らんだマイバッグが増えた。今日は会社をほとんど定時で出て、完全に補充を忘れていて無くなりかけている生理用品を購入した日だった。中身は軽いのだが、なかなかかさばるから少し恥ずかしい。9月いっぱい続くとか言われている暑さのせいで、汗もダラダラである。

信号待ちの横断歩道の向こうに、またまた見知った顔を見つける。2年ほど前だったか、転職のために退職された先輩である。背の高い、さっぱりした女性。隣には同じくらいの背丈の男性がいる。2人ともスーツなので、もしかしたら2人は同僚という関係に過ぎないのかもしれないが、2人でスーパーの買い物袋を持つところを見る限り、カップルなのかもしれない。同じ職場にいた頃は、お付き合いしている方はいないとおっしゃっていたから、転職後に知り合った方なのだろうか。

それにしても、今日は帰り道でよく知り合いを見かける。しかも知り合いカップル(おそらく)を、だ。

私は彼女達の働く姿しか知らないけれど、こんなにも彼氏の隣にいる女性は穏やかなんだと思わされる。

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私も少し前までは、こんな穏やかだったのだろうな。

私と、4ヶ月前まで付き合っていた彼との写真を見返す。動画もある。そんなに沢山は撮っていないけれど、楽しそうな私と、私に付き合ってくれる彼の姿がそこにある。写真や動画の中の私達は、穏やかというより、私が嬉しそうで彼がそれを半ば呆れながらも見守っているようなものばかりだ。穏やかさは写真に映らないのだろうか。どこか他所行きの、構えた2人になってしまうのだろうか。

それとも、私達は写真に映らない日常も、今日見た彼女らのような穏やかさが漂う2人では無かったのだろうか。

スマホ片手にぼんやりと考えながら、フォルダの中に穏やかさの片鱗を探しているうちに、夜はしっかり更けていく。

元々、彼氏との関係にあまり穏やかさを求めるタイプでは無かった。尊敬とほんの少しの刺激がある、いつまでも私が片思いをしているような関係でありたい。今だって、そしてこの先もきっと私はそういうものが欲しい。

だけど、今夜はなんだか、あの2人のような穏やかさが羨ましい。