会社での昼休憩時、よく行くお店がある。
会社から10分ほど歩いたところにあるパスタ屋さんだ。
このパスタ屋さんは、とにかく安い。ありがたいお店だ。
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最も安いパスタは450円。1番高いものでも650円だ。お店の前には「パスタ450円~」という看板が置いてある。あまりに安いことと、看板そのものが手作り感あふれる仕上がりなことに怪しさを感じてしまい、最初は入るのを躊躇ってしまっていた。同じように怪しく感じる人も多いのか、お昼どきでもそこまで混んでいない。その点も、客としてはありがたい。
メニューもかなりたくさんある。パスタのみのラインナップだが、40〜50種類くらいある。
カルボナーラやボンゴレなど、定番のメニューも美味しいが、和風パスタが特に美味しい。そのなかでも私が気に入っているのは、600円の塩辛のパスタだ。塩辛そのものは、味が濃すぎるように感じてしまって普段はあまり食べないのだけれど、このパスタはベースのクリームの味で中和されてとても食べやすい。しっかりガーリックも効いていて、上品さもありつつ、ジャンクさも感じられる味わいなのだ。
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あと、アサリと納豆のパスタも好き。こちらも600円。かわいいお値段なわりには、ちゃんとそれなりの量のアサリが入っているところも嬉しい。私は元々、飲食店で納豆が入ったメニューを頼む人の気がしれない、と思っていた。
納豆は白ごはんにかけて食べるのが一番美味しいし、パスタやカレーにぶち込んでも仕方ないじゃないか、と。その考えを変えてくれたのがこのパスタだった。これはぶち込むべくしてぶち込まれた納豆だ、と感じた。
値段がそれほど高くないから罪悪感なく外食できて、味もしっかり美味しい。メニューを選ぶ楽しさもある。だから私は、ちょっと疲れを感じたときや嫌なことがあったときにはこのお店に足を運ぶ。常連だからといって、店主さんと言葉を交わしたりすることはない。そういうタイプのお店ではないから。
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ただ安定して美味しいパスタを出してくれる。それだけで、私にとってこのお店は、十分に居心地の良い場所なのだ。
だが、来年の今頃には、ランチ時には通えなくなってしまう。何故なら、私が勤めている会社の社屋が移転するから。移転といっても一駅分移動するだけなので、通勤などにはそれほど支障はない。むしろ私の家からは近くなるから、その点においては嬉しいくらいだ。だが、ランチの観点から考えると、この移転は決して喜ばしくはない。
パスタ屋から遠ざかってしまうのだ。昼休みの時間内に行って、食べて、帰ってくることが出来なくなってしまう。非常に悲しい。このお店はディナー営業もしているから夜に行くことも出来るのだけれど、私としては、お昼に行ってパワーをチャージして、午後に残りの仕事に臨むというルーティンが気に入っていたのだ。
だからといって、当たり前だが、私に移転を止めることはできない。受け入れるしかない。今のうちに通えるだけ通っておこう。私に出来ることは、それだけだ。