部屋で過ごしている時、私は私のままでいられる。
ひとり暮らしを始めて私は、一国一城の主となった。
この国の色を変えるのは、私の気分次第。
自分の感情によって、良くも悪くも部屋の空気感はすっかり変わってしまう。
悩みがある日、とげとげしい気持ちをしている時には、小さなほこりが目について代わり映えしない視界にイライラする。思わずニヤニヤしてしまうようなことがあった日には、普段よりも家具や本の彩度が明るく見える。
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部屋の真ん中には、中学生くらいの時に買ってもらったIKEAのテーブル。ギリギリ2人前の料理を広げられるくらいの正方形で、おもちゃみたいに鮮やかな黄色のテーブル。椅子に座るほどの高さなんて全然ないけれど、床に座るには少し背が高い。
部屋を訪れた人は全員、例外なく「なにこのテーブル!はで~!なんか意外」と言う。
まわりから比較的大人しそうに見られる私のイメージと、それぞれの家具が個性を主張しているこの部屋は合っていないらしい。
いたるところには、本棚に入りきらなくて平積みにされた本たちが置かれている。作家、ジャンル、言語は関係なく、手に取った順にそこにある。
ここにある本が私の言葉や考えの栄養になっていて、散らばっている数だけ、積まれている高さだけ、私の心が豊かになっているはずである。自分の興味と好きで偏っている小説や雑誌に、自分を肯定してもらっているような気持ちになる。明らかに他とは違うテーマの本は、まわりと合わせようともがいた私の努力の記録である。
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流行なんてあんまり気にせずに買った服がかかったクローゼットを開ける。次から次へとお気に入りの服だけを引っ張り出して、人の目なんか気にせずに、自分が着たいようにコーディネートをしてファッションショーをする。
好きな家具と本と服に囲まれた部屋は、私の心の中身であり、まさに「ありのまま」の私という感じ。自分が作り上げたこのお城が、常に私の味方でいてくれる。
人前では自信のなさを覆うようにプライドの仮面をつけていて、その仮面を外すことができるのは、この部屋しかない。私の部屋には、私の好きなものがパンパンにつまっていて、どれだけ外で気を張っていたとしてもドアを開けるとそこには、変わらない私の部屋が待っている。
部屋にあるものは、自分自身の気持ちの揺らぎや葛藤をも映し出し、私が吐き出したため息もひとりごとも笑い声も全て吸収し、削れた私の心と身体を修復する。
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まわりの速い流れに連れていかれそうな時、流されまいと必死で自分をつなぎとめることに体力を費やしてしまう。しかし、この部屋の中だけでは自らを放り出したとしても、どこへも流されていくことはなく、本当の自分と本当の自分の好きを忘れないでいることができる。今ここにあるものは今の私を形作っているものであり、これから増えていくであろうものもまた、私の一部となっていく。
この部屋でのひとり暮らしもあと1年半ほどで終わる。次に暮らすことになる部屋にも、この私だけが知っている世界を持っていき、まだ見ぬ新しい私の城を築いていきたい。