「なんで人の気持ちがわからないの?」「なんでこんな簡単なこともできないの?」

そう聞かれても、俯くことしかできなかった。

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物心ついたころから、「みんなと同じことができない」という悩みを抱えてきた私には発達障害がある。発達障害の中でも、自閉症スペクトラム障害(ASD)のアスペルガー症候群の傾向が強いとされている。自閉症という名がついているが、幼いころは暗い性格でもなかった。むしろよくしゃべるほうだった。

中学生になると、周りの空気が読めず相手の感情を推し量るのが苦手な私は、うまく人間関係を築けなかった。

しだいに変わり者とみなされ、教室の中で孤立していった。

批判されるのが怖くて、自分の感情を押し殺す日々。

周りと違う感覚をもつ自分に自己嫌悪する日々。

みんなが好きだと言うものに共感できなかった。

いつしか私は、「みんなと同じになりたい」、そう思っていた。

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高校2年生のとき、私は初めて自分に発達障害があることを知った。

きっかけは母からのカミングアウト。アルバイトをしたときに、自分の無力さを感じて、「私はどこに行っても働けないのかな」と不安になっていたときのことだった。

当時の私は、発達障害の「障害」という2文字に衝撃を受けただけで、それ以外の話は頭に入ってこなかった。

だから、なぜ母はこのタイミングで告白したのか、私ははっきり覚えていない。

しかし、今振り返れば、自分の特性を活かして職業を選んでほしい、という思いがあったのではないかと感じる。

置かれた場所で咲くのではなく、自分の咲ける場所に身を置くことの大切さに気づいた。

私は、「自分の個性を大切にしたい」、そう思えるようになった。

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身体障害と違って、発達障害は目に見えないからわからない。だからこそ、発達障害の人の行動は怠惰によるものだと思われがちで、適切な理解や配慮がされにくい。

私は発達障害の特性を理解してもらいたいが、自分から「理解してください」と言うのは何だか違う。このようなジレンマを感じるたびにもどかしくなる。

みんなと違うことは悪いことなのか。私の答えはノーだ。

みんなと同じことができないんじゃなくて「見ている世界」が違うだけ。

だから、みんなと違う人を見たときに「こういう人もいるんだな」と温かい目で見てほしい。

自分と違う人を「変わり者」と揶揄するのではなく、自分との違いを認め合うことが大切である。

他人との違いを受け入れることで自分のことをわかってくれる人が増える、そういうホッとするつながりが起きる世の中になるのを私は待っている。

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最近、大学2年生も後半に差し掛かったことで、就職とか資格とかそんな進路に関する言葉を耳にする機会が増えた。

これから先、進路について考えていくうちに、「自分はこのままでいいのだろうか」と不安になることもあるだろう。

そんなときは、母の示してくれた道しるべを思い出したい。

自分が社会に適合していくのではない。

もちろん、人の気持ちに近づくことは必要だが、誰かの思惑に自分がのっかる必要はない。

今の私は、「自分が輝ける場所を見つけたい」、そう思っている。