学生時代からコーヒーを飲むことで気持ちを切り替えていた。
勉強するときの1杯、映画観終わった後の1杯、読書するときの1杯、お散歩の寄り道の1杯、いろんな場面で1杯のコーヒーを飲んできた。

高校生の頃は試験前や受験勉強で、大学時代はレポートや試験前の勉強などで、ほぼ毎日通っていた地元のコーヒー店がある。

短くて1時間、長くて3時間以上はそこで勉強していた。息抜きの時や学ぶ教科を変えるときにコーヒーを口にする私は1杯飲むのが遅くて、スタッフさんが代わる時間まで把握してしまうほどだった。
毎回同じコーヒーを注文していたり、お店に足を運ぶ時間が同じだったからか、スタッフさんに覚えられていて、もはや、いつものですよね?なんて確認を取られるほどであった。

◎          ◎

そんな日常の中で、忘れられない出来事がある。

高校生の頃、店内の席が空いてなくて、渋々テラス席で勉強していた時、風に煽られながらも英語の勉強をしていた。

隣の人たちに1席を貸していたけれど、集中していたから忘れていた私にむかって、男性が「イス戻しますね」と声をかけてきた。見ると、いつもコーヒーを淹れてくれるスタッフさんだった。彼は大学生くらいでアルバイト終わりなのか私服でなんだか新鮮だった。

彼は私に「なんの勉強してるの?いつも長い時間やってるよね」とうろ覚えだが、そんな言葉をかけてきた。私は「試験前で、今は英語を~。そろそろ数学ですかね?」なんて少し慌てて返した。彼は「頑張ってね」なんて言葉をくれた気がする。

そんな彼はなにも言わず、隣のテラス席に座って、スマホをいじっていた。私は少し気になったが、また勉強に集中した。当たり前だが、私が帰る前に彼は帰っていた。

その帰り私はなんだかほっこりした気持ちになった。なにより覚えていてくれたこと、お仕事終わりに声をかけてくれたことが嬉しかった。そんなことは初めての経験で少しドキッとした。

そのことは今まで誰にも言わずに胸の中にしまっていた。私にとって大切な出来事で特別なスタッフさんであったから。

その後もそこのカフェで勉強するときは、ほぼ毎回コーヒーを淹れてくれて、いつも「今日も頑張ってね」「今日は何時までやるの?」なんて声をかけてくれた。私はその一言をかけてくれるのが嬉しくて、ほぼその人に会いに行くためにそこのカフェに行ってるような習慣になっていった。

その人が淹れてくれるコーヒーはいつも温かくて、勉強の切り替えに飲むには苦すぎず、甘すぎず、私にはちょうど良かった。

時間が経ち、学年が上がるにつれて、自然と彼はいなくなった。きっと就職したのだろう。でも、私はそこのカフェに行き続けた。思い出が詰まっているそのカフェが好きで、地元に帰るときは今でも必ず行っている。

◎          ◎

私は大学の頃2年くらい違うカフェでアルバイトしていて、彼の振る舞いを目標に努めていた。常連さんを覚えること、いつもなにをしにカフェに来ているのかを見ながら、仲良くなった常連さんとは言葉を交わしながら、働いていた。

私も彼のように誰かの切り替えの1杯を淹れられていたら、嬉しいなと思う。