結局、私は誰かひとりの男に強く深く愛されることでしか満たされないのだと思い、とても悲しい。

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自分なりに一生懸命に勉強して、小さな地頭の割には素敵な大学に入ったと思う。今働いている会社は決して大企業ではないけど、ちゃんと自分に仕事が降りてくることは、有難い。たまに信じられないミスをして、事の重大さと明日への不安と絶望で潰れてしまいそうになる。が、それでも自分には深い愛情を注いでくれる家族や、気難しい私の性格に寄り添い仲良くしてくれる友達がいるから、なんとか持ちこたえている。

得意げな顔で「お前には顔が足りない」と言ってくる大学時代の同学部生。自分は社内の評価高いんで、自分は許されるんで。そうやって私の胸を軽く触れてくる会社の先輩。家事に価値は無いと言い張るYouTuber。電車で痴漢に会った時の、やり場のない絶望と怒り。全部嫌に決まってるけど、呑み込む。私は私の割に幸せだと言い聞かせる。

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元カレとドライブに行った。昨日は深夜1時まで働いたといいながら、今県内で一番混んでいる紅葉スポットに連れていってくれた。別れてもこうして色んな景色を見せてくれると嬉しい。未だに付き合ってた頃のあだ名で呼ばれると、私の中の枯渇寸前の女の潤いが湧き出てきて、馬鹿馬鹿しい。

帰りの車中で、彼は言った。「フェミニストねぇ。ほーんと嫌い。なんで女だからという理由で優遇しないといけないの。出世出来ない理由が性別で決められるのはだめだけど、性別が理由で出世が決まるのは意味が分からないでしょ。」

こうやって言いくるめられて、終わる。私は言い返したり、出来ない。この世の中が、この地球が、いかに女性を雑に扱ってきたかとか、その歴史とか、そんなことを説明したって、この人に嫌われるだけだから。声を上げれば煙たがられて、黙っていれば闇は続いて。

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私は結局、この人に愛されれば幸せになってしまう。この人が私のことをもっと好きで、もっと時間を割いてくれたら、コロッとまた復縁してしまう。私が今なんとなくずっと人生がつまらないのは、君が一番好きだよと言って抱いてくれる男がいないから。自分がこんなつまらない人間であることにうんざりする。

私は、結局ひとりの男に愛されれば幸せなんだな。恋愛をするたびにそれを再確認して、自分のつまらなさをこっそり恥じる。そして別れて、また絶望する。苦しかった女性運動の歴史を学んでもなお、自分は変わらなかった。

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自分の生活の物足りなさを、恋愛で埋めようとあがく自分はずっと嫌いだ。私はちゃんと勉強して、仕事をして、好きなものを食べ好きなものを読んで、自分が好きな体系で、自分が好きなファッションで生きていたい。そうやって自分に忙しくありたい。

今までずっと、自分一筋な男をずっと待っていた。けれど待っていてもいないんだから、そろそろ諦めてもいいだろう。彼の家に行った時、ついでに掃除や洗濯、料理をすると、彼は凄く喜んでくれた。こういう手法で男を喜ばすのも、もう辞めたい。私は自分の住んでいる家だけを綺麗にしていればそれでいい。