多くの人が無意識に、必要だと感じたら躊躇いもなく発する言葉。
「ごめん」。
重くも軽くもあるその言葉だが、いかに人を動かすトリガーであったかを嫌というほど痛感したここ最近である。
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今年度は人と一緒に仕事をしている、形式上は。
人と仕事をするというのは非常に難しいもので、各々に得意不得意があるもののどうしても業務量や業務速度というのは偏りが生まれるものだ。
自分で言うのはなんだが、私は自分の価値を高めるために日々努力してきた。
資料作成やストーリー構成は最初は上手くなかった。
それでも、勉強して少しでも良くなるように今でも最善を求め続けている。
いい案が生まれるようにさまざまな分野の知識を身につけてきた。
どれもまだまだ発展途上ではあるが、いつの間にか多くのことが身につきかけていた。
そんな力を役立てられる機会は多く、数人のチームで1番入社が浅い私がいつの間にかほとんどの業務を担うこととなっていた。
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どんな難題も自分一人で立ち向かわなければならなかった昨年度は、もちろんしんどかったが、やった分だけ自分に返ってきたという点が魅力的だった。
しかし、今年度は私の作り上げたものが他のチーム員に還元されるというなんとも理不尽な状況が続いている。
チームだからしょうがない。
努力できない人、向上心がない人を責めたりはしない。
人には得意不得意がある。
そう自分に言い聞かせながら過ごした半年だった。
そんな私の堪忍袋の緒が切れたのはつい先月のこと。
上司からの指示に基づいて進めていた事案の方向性が180度変更になった。
その前から何度も意見の変わる上司に合わせて資料を作り直し、方向性を修正していた。
一度も謝ることもなく、へらへらと笑う上司の口癖は、 「上が言ったことだから」。
私的負の流行語大賞にノミネートされている言葉を聞く度に頭が痛かった。
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追い打ちをかけるように手を動かさず口だけ出す先輩からも嫌味を言われる始末。
上司とは異なる意見をいうものだからほとほと困り果て、先輩の思うような資料を作らなかった次の日からは無視されるようになった。
もちろん上司は作った資料を満足げに会議に持っていった。
そして返ってきた言葉が、上のイメージと違ったらしいからそれに見合う資料を作り直して、睡蓮さんなら簡単に作れるでしょ?ただその一言だった。
所詮は会社員の身であるから、組織の意向が変われば修正を加えなければならない。
頭では分かっていても、毎日怒りは沸々と湧き上がっては理性で抑えた。
いつか暴言を吐いてしまうんじゃないかと、自分自身を抑えることでいっぱいだ。
「何度も作り直させてごめんね」
その一言があれば、私は彼女たちにこのような感情は抱かないだろう。
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今の私にとって、チーム員である上司も先輩も、敵でしかない。
チームとは名ばかりなのだ。
相変わらず先輩は口だけ出して、手を動かす気配は一向にない。
唯一手伝ってくれている先輩は、別の仕事が溜まっていることもありかなり精神が参っているようだ。
そんな先輩の背中をさすりながら私たちは今、当該のプロジェクトを進めている。
どうして私がこんな目に遭わなければならないのだろうかと。
私が悪いのだろうかと。
自問自答した日も少なくない。
けれど、そう迷うたびに自分のこれまでの成果や軌跡を思い出して奮い立たせる。
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ありがたいことに、チーム外には多くの仲間も存在し、 私たちのチームが異常な環境に置かれていることを認識してくれている管理職もいる。
実際に状況を変えてくれるかはさておき、認識してもらえるだけで違うものだ。
そう、私は一人でもなければ、間違った道を進んでいるわけではない。
「ごめん」。
その言葉を聞くことはおそらくないだろう。
今の私にできるのは無視する先輩と同じにならないよう笑顔で挨拶すること。
上が望んでいるであろう物を完璧に準備することだ。
私は彼女らのようには決してならない。
私は下ではなく、上を向いて歩いてるのだから。