歯医者が嫌いだ。

常に予約が埋まっていて、思い通りに予約が出来ない感じ。 受付の方の無愛想な対応。「キュイーン」「ガガガガッ」という嫌な音。独特な薬の匂い。治療前の嫌な緊張感。

痛くても我慢しないといけない、されるがままの状況。麻酔が切れた後の、口が言うことを聞いてくれないもどかしさ。

全部全部嫌いだ。

こういう時、子供に戻りたい〜〜!と心から思う。
自分が子供だったら、思いっきり泣き喚くことが許されたのに。 嫌だ、しんどい、帰りたい……気持ちは子供の頃と何ひとつ変わらないのに、今の私は口に出せない。

もう子供ではなく、成人女性だから。

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先日、親知らず4本全ての抜歯が完了した。 長い戦いだった。
仕事の関係上、1本ずつ、期間を空けて抜いたのだが、上の親知らずを2本抜いた後の、3本目、右下の親知らずを抜いた時が地獄だった。上の親知らずを抜いた時は、痛みがすぐに引いたので、下の親知らず抜歯を完全に舐めていた。

私は右下の親知らずを抜いた後に、彼とデートに行く予定を入れる余裕ぶりだった。

歯を抜いたその日にお酒を飲んだり普通に食事をしたのが良くなかったのか、抜歯後の痛みは2週間以上続いた。
鎮痛剤を多めに飲まなければ仕事にならず、鎮痛剤の副作用で仕事中はずっと眠い。

何でこんな辛い思いをしないといけないのだろう。何でこんな痛みを抱えながら、仕事をしているのだろう。なぜ生きているのだろう。人生はあまりにハードだ……2週間くらい、そんなことを考えながら耐えていた。

右下の親知らず抜歯で大ダメージを喰らった私は、最後の左下の親知らず抜歯の予定日を、2ヶ月後に設定した。予約可能な期間が「2ヶ月以内」だったから、ギリギリまで先延ばしにしてやったのだ。

だが、2ヶ月なんてあっという間で、抜歯予定日が近づくと、予約をキャンセルしようかと何度も迷った。本気で。

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抜歯の日を迎えた。
嫌な音と嫌な匂いが充満する部屋の中で、マズイ液を口内に入れられ、身動きが取れない状態にされ、歯茎に麻酔を刺される。

イテェ〜。痛いんですけどォ〜。心の中で文句を言いながら耐える。
「では抜きますよ」と言われる。嫌な緊張感が走る。
私は目をギュッとつむり、拳を握った。
顎を押さえつけられ、親知らずをフルパワーで引っ張られる。そしてなかなか抜けない。

しんどい!!辛過ぎる!こんなの拷問じゃん!!!!叫びたいけど、もちろん我慢する。

歯医者の懸命かつ強引な引っ張りと、私の必死の我慢により、親知らずは抜けてくれた。 抜歯後になぜか必ず聞かれる「抜いた歯、持って帰りますか?」「いや、要らないです」という会話で、少しだけ緊張感がほぐれた。

やっと終わった〜。全部の親知らず、抜いた!

これで、親知らずが痛むことを気にせずに生きることができる。それだけなのだが、この時の私は、もう一生涯の健康を手に入れたかのような達成感を得ていた。

さらに、4本目の親知らず抜歯後、私は禁酒をした。少しでも傷口の治癒を早める為だ。

ここ最近、仕事への不安や不眠などを理由に酒量が増えていたので、そういった意味でもこのタイミングで禁酒が出来たことは非常に良かった。禁酒は現在、約2週間続いている。

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大人は耐えなければいけない痛みが多いなぁ。

耐えて、耐えて、我慢して、思ったことなんて1つも言えなくて。

職場でも、友達にも、恋人にも、そして、歯医者でも。

けれど、こうやって痛みに耐えながら生きるのが、大人であり、人生なんだろうな。 色んな痛みを抱えながら、痛いところなんて1つも無い顔をして生きるのが。

必死に目をつむり、拳を握りながら我慢した痛みの先に、こんなことを思った。