祖父母と一緒に暮らしていた時期がある。両親の元を離れ、上京した際に、神奈川に住んでいた祖父母の家を間借りした。

ご飯はすべて祖母が作ってくれる。おばあちゃんの作るご飯というものは大抵が美味しい。人生経験を積んで、経験値が旨みとなって詰め込まれたような料理が出てくるので、私は祖母のご飯が好きだ。

◎          ◎

ある日の朝、たまごサンドが出てきた。ロールパンの真ん中に切れ目が入れてあり、そこにゆで卵を潰してマヨネーズと塩コショウを混ぜたフィリングがこれでもかと挟まれている、たまごサンド。

見るからに美味そう、絶対美味い。そう思って齧る。
「ん!?」
なんだ、なんかいる。たまごサンドには場違いな何かが口の中でぐじゅ…と潰れた。慌てて齧り口を見てみると、いるのだ。そこに黒い粒が。

「ねぇ、この黒いの何?」
恐る恐る尋ねると、祖母がケラケラ笑いながら「レーズン」と答えた。
「レーズン!?」
「普通のロールパンを買ってきたつもりなんだけどね、間違えたんだぁ」

レーズンパンで作られるたまごサンド。しかしたまごフィリングの中にもまだ何か、たまごとは違う食感の物がある。「これは?」と聞くと「アスパラ」と答えられる。
「レーズンを誤魔化すために刻んだアスパラを入れてみた」

意味がわからない。間違えてレーズンパンを買ってきた、までは百歩譲って理解できたが、そのレーズンを誤魔化すために刻んだアスパラを入れてみた?同じことを二度復唱してみたが、やはりわからない。どういう感覚なのだろう。まったくもって誤魔化せてないし。

食べられないことはなかった。レーズンとたまごとアスパラという異色すぎる組み合わせではあるが、面白さがスパイスとなって2個平らげた。

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別の日には、あまりの異臭に飛び起きたことがある。嗅覚で起床。寝起き一番、「くっさ!」と言いながらキッチンへ行くと、祖母が納豆を海苔で包んで揚げていた。カラッと揚げられた納豆が朝食のおかずに陳列される。初めて見る食べ物だった。ゲテモノっぽい見た目。

しかし中身は海苔と納豆。匂いがキツいだけで、不味いわけはない。私はクサヤやシュールストレミングを食べたことはないのだが、恐らく同じ類のものである。祖母は臭い臭い言いながらも食べる私を見て、またもケラケラ笑っていた。

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経験値が詰め込まれすぎると旨みを通り越して衝撃になるんだな、とそのとき思った。彼女の人生上、アスパラで何かしらの異物を誤魔化せたことがあるのだろう。納豆に火を通すと美味しいということを知った日があったのだろう。

薄々勘づいている人もいるかとは思うが、この話にオチは無い。私の祖母はそういう祖母です、というただの体験談だ。出そうと思えばまだまだネタは出せるが(生のピーマンが丸ごと入ったカスクートの話とか)、けれどもこれが私の朝ごはんの思い出である。朝ごはんにまつわる、これ以上ない最高の思い出。

しかし、そういった変な料理を毎度毎度、昼でも夜でもなく朝にやっちゃうところ、祖母もまだまだアグレッシブである。