優柔不断で何をするにも考えすぎてしまうわたしが、失敗を恐れず直感を信じて買い物をする場所がある。本屋だ。

とくに目的もなく、でもなにか読みたいと思ったときに、案外「いまの自分」にしっくりくる本が見つかる。悩んでいることに寄り添ってくれる本。一目惚れした写真集。表紙で選んだ小説から、好きな作家が増えたこともあった。本屋での直感は、わたしの世界を広げてくれる。

もちろん直感で買って、合わなかった本もあった。買ったからには読もうと思いつつ、もやもやする時間ももったいないから、ちょっと読み飛ばしたりする。それでも、運命的な出会いがあるからやめられない。

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その日わたしは、ひどく気分が沈んでいた。昨晩家族にきつい言葉を投げてしまって、せっかくの楽しい時間を台無しにした後悔を引きずっていたのだと思う。散歩がてら本屋に行こうとひとりで出かけた。本屋までの道のりは気持ちのいい晴れ模様だったのに、気分はもやもやと曇ったままだった。

本屋をぶらつく。表紙で気になった本をペラペラとめくってみるけれど、文字を追う気にならない。こうなりたいと思って手に取ったノウハウ本は、やるべきことが多すぎて目次を見ただけで気が遠くなった。

今日は疲れすぎて、読みたい本がないかもしれない。もう帰ろうかと思ったとき、一冊のタイトルが目に入った。知らない作家のエッセイだった。そのタイトルだけで、わたしがぐるぐると悩んでいたことが言語化された気がした。同じことを考える人がいることへの安心感と、自分では言葉にできなかったことへの少しの悔しさ。入り混じった思いを抱えながら、さっきまでの暗い気持ちから一転して、その本に惹かれていた。

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中を覗いてみると、穏やかな男性が話しているのを思わせる文章だった。何気ない出来事や、これまでの記憶をたどった、あたたかさと寂しさのある日々の記録。一つひとつの話が短くて読むハードルが低いのも、考え疲れた頭にはありがたかった。

この本なら読みたいかもしれない。そう思って、レジに向かった。帰りの道のりは、少しだけ心が落ち着いていた。

ゆっくりしたい夜に、大事に大事に、一話ずつ読んでいる。読み終わるのがもったいないくらいの、お気に入りの本だ。あの日あの本屋に行かなかったら、あの場所に並べられていなかったら、知らないままでいたと思う。そう考えると、あの日のもやもやにも意味があったといえる気がするのだ。

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そんな運命の出会いのためにわたしが身につけてきたコツがある。表紙と裏表紙だけではなく、中も少し見てみることだ。内容に興味を持っても、語り口調や考え方が苦手だと感じ、手が止まってしまうことがある。書いた人との相性が、読む楽しさを左右すると感じている。

表紙やタイトルに惹かれて手に取る。文章で、書いた人とフィーリングが合いそうかを確かめる。確かではない直感を信じて、わたしはこれからも本を選ぶ。失敗することもあるけれど、たまに起こる、宝物との出会いを求めて。