休日に有田陶器市で手に入れたマグカップでコーヒーを飲みながらXを見ていた。流れてきた一つの動画を見て急に文章を書きたくなった。
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宮崎駿監督がアニメーションへAIを活用する提言を受ける動画を見た。提案者はITベンダーかと思われる。「AIを利用することで人間が想像出来なかった気持ち悪い動きを描ける」と、監督に最新のツールを駆使することでさらに人間のクリエイティビティが向上する、ひいては作品の幅が広がると伝えたかったのであろう。それに対し監督は「身体障害者の友人のことを思い出した、生命への侮辱を感じる、勝手にしてください」といった言葉で応じ、その場が凍り付く。
決してこのITベンダーが悪、とは思わない。人口が減少し日本の労働生産性は更に落ち込むことは目に見えている。そのためITベンダーはこぞって、AIや業務効率化のツールを提案する。「労働人口が不足します。企業の生き残りのためには業務効率化が急務ですよね、ITツールを導入しましょう」。こんなに雑な言い回しはしないが、私たちITベンダーの営業がお客様に話す内容はざっくりこんな感じである。
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私たちが話す言葉に嘘はない。労働人口が減少し、生き残りの為に効率化が必須なのは事実なのである。しかし、人や事業には効率化できるところとできないところ、「したくないところ」が存在するのではないだろうか。今回ITベンダーが提案した内容は監督の「したくないところ」に触れてしまったのであろう。
私は平日こそ「効率化」を引っ提げてお客様に話をしている身であるが、仕事を離れるとそんなことはない。岡山の作家さんの陶器の鍋でコトコト豆乳を煮詰めてスープを作り、湯布院で手に入れたレンジにもかけられない木のプレートに目玉焼きを載せる。宮古島で買った琉球ガラスのコップに飲み物を注ぐ。これらは勿論食洗器にはかけられない。所謂「ていねいな暮らし」を意識しているのではない。単純に好きな食器で食事をして大事大事に手洗いしている。仮に「このお皿だと電子レンジ使えます、食洗器も使えます、効率化できます」と言われても余計なお世話、ほっといてくれ。あなたには私が暮らしで大事にしているものなどわかんないでしょ。と思うであろう。
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そういうことである。監督も作品を作るに当たって伝えたいメッセージがあるはずである。アニメーションを効率化し、自分の想像していない範疇の動きをされると監督のメッセージは薄らいでいく。伝えたいことや描きたいものと向き合い、時間がかかっても自身の納得いく表現をしたい、そんな思いなのではないだろうか。
効率化、タイパ、インスタ映えにモノ申したいことは沢山ある。「便利」が氾濫するこの世の中、自分が大事にしているものとじっくり向き合うことは重要である。自分と向き合えて初めて他の人が大事にしているものと向き合える。ここが出来なければ、本当に人の役に立つ営業にはなれないな、と感じる。人に寄り添ったIT営業となれるよう気を引き締めて今日も大事なお皿を自分の手で洗っている。