「人生で最も頑張った経験について教えてください」
私が就活で最も聞かれたくなかった質問である。

勉強、音楽、スポーツ

小さな頃から今まで両親には沢山のことを経験させてもらった。月曜から金曜まで習い事や部活で埋まっているような、それはもう恵まれているほどにやらせてもらったと思う。でも結局のところすべてが中途半端で何か一つを成し遂げたことがない、結果を出したことがない。これが私のコンプレックスだった。

好奇心旺盛で飽き性、おまけに逃げ癖がついている。なんとなく自分の限界を低めに設定することで、楽をしてきてしまったのだ。

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大学3年生の冬。エントリーシートの提出が迫っていた。

エントリーシートは今までの人生について振り返りながら書かなければならない。ここにコンプレックスだらけの人生を書かなければいけないのかと。これが私にはしんどくてしょうがなかった。

人生と向き合わなければいけない時間で、後悔が募る時間でもあった。
多分、自業自得と言われるだろう。楽してきたんだからそのツケだよとも聞こえてくるようであった。

私にとって地獄のような時間を救ったのはピアノの先生だった。唯一、続けてきたピアノ。多分初めて表彰されたのもピアノだったんじゃないかと思う。これもまあ惰性で続けてきたと言われればそうではあるが、私が一番好きなことだった。心の支えであり、癒しの時間だった。過去の栄光とまでもかない小さな光にすがり続けてきていた。

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いつも色んな話をするのだが、就活の話をする中で悩みを察した先生が言ってくれた。
「続けてきたことに意味があるんだよ。それも一つの立派な才能だよ

就活アドバイザーや友人、家族、誰に言われても「それはあなたがやったことないからそう思うだけだよ」「たいしてすごくないよ」なんてひねくれたことを思っていた。

他の誰でもない私のピアノを見続けてきた人からの言葉が欲しかっただけなのかもしれない。尊敬をする人からの言葉は私の心にすっと入ってきて、心の奥底にあった鉛のような重い塊が少し溶かしてくれるようだった。

私の心は単純明快である。それまでどん底だった気持ちは晴れ晴れと。

過程に着目すればいいんだ。と、なんて簡単なことが見えてなかったのだろうか。泥沼にはまりすぎて結果に囚われてたことにやっと気が付いた瞬間だった。先生には感謝しかない。

読んでいるあなたはそんな簡単に心変わりする?と思うかもしれない。私もそう思う。

でも人の心は難しいようで、何気ない一言で簡単に救われることもある。ことばは凶器にもなりうると言うが、この時の私にとっては魔法のようだった。

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結果がないなら、過程を見ればいい。なんなら過程を相手は知りたがっているのだ。結果だけ並べられてもその人の人生は何もわからない。ぱっと見、華やかなのはもちろん、結果である。この経験から、結果という華やかさの中の過程に着目できるような人間になりたいと思うようになった。

相変わらず、マイペースに無理せず、人生を歩んでいる。一応、就職もできる。
勉強をすればよかった。真剣に向き合うべきだった。何かに打ち込めばよかった。

……とは思っている。まだ20代なのだから、これから始めて遅くはないかもしれない。

他人に自慢できるような人生ではないけれど、せめて自分だけは自分を認めてあげようと思う。

今後、人生で最も頑張った経験を話すことは中々ないだろう。転職となったら今までのスキルについて聞かれるのだろう。その時には自信を持って自分について話せるように生きていきたいなと思う。