私は就職活動中の大学生である。就職活動はこれまでの自分を振り返り、現在の自分と向き合い、これからの自分を考えていく活動であるが、それを文字化するものがエントリーシートである。エントリーシートではよく「あなたの趣味は何ですか。」と聞かれる。私は毎回「舞台鑑賞」と書く。
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私の趣味が舞台鑑賞になったのは、小学6年生の時だ。母からの誘いで劇団四季の「ライオンキング」を観に行ったことが始まりだった。正直母から誘われたときは興味がなかったのだが、地方住まいであった私は「東京に遊びに行ける!」という単純な理由で行くことを決めた。
ディズニー作品であるライオンキングを劇団四季が日本の舞台で1998年から上演し、今年で27年目となる長い歴史を持つロングラン公演作品。当時私が足を運んだのは大井町の四季劇場であった。その時の私は東京に遊びに来れたこと、ただただそれが嬉しくて楽しかった。だから正直劇場に着いても、心は乗り気ではなかった。しかし代表曲である「サークル・オブ・ライフ」で幕が開け、客席を巻き込み会場一体となる演出、創り出されるステージの実際のスケール以上の世界観、そして演者の歌声、全てが私の心に刺さった。笑ってしまうほど呆気なく、目の前で繰り広げられている世界に虜になってしまったのだ。こんな経験は初めてだった。
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私はこの経験をきっかけに、劇団四季のファンになった。その後も多くの作品を見に行った。「美女と野獣」「リトルマーメイド」「オペラ座の怪人」「キャッツ」「アラジン」など、代表的な作品は全て観に行った。
いつしか私もあの舞台に立つ人になりたいと思うようになった。舞台に立っている人がカッコ良くて、キラキラしていて、憧れるようになった。
中学生のある日、担任の先生と母と私で、三者面談をした。高校受験のこと、そして将来のことについて話した。私はその面談で使うための事前解答紙の将来の夢の欄に、「舞台に立つ人」と書いていた。担任と母に笑われた。現実的な進路を考えるようにと言われた。人の夢を笑うなんてあり得ない、悔しいと思ったが、そんなことを書いた自分が恥ずかしくもあった。
難しいことくらい分かっていたのだ。
地方の田舎の中学生だった私が、歌やダンス、演劇のレッスンに通っているわけでもなく、家庭のことを考えても通える可能性もなかった。かといって、通用する実力を持ち合わせているわけでも、到底なかった。
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私はその夢を諦めた。夢とも言えなかったかもしれない。
その後は、夢を追うためではなく、趣味として作品を観に行った。新しい作品を見る度に心打たれ、感動を得る感情は、初めてライオンキングを見た時から何も変わっていない。
初めてライオンキングで感動を得てから、約10年、私は大学生になり、就職活動をしている。そして、劇団四季の経営スタッフのインターンに参加した。
舞台に立つ人ではなくても、裏で舞台を創り上げ、支える人がいる。その存在が必要不可欠であり、その立場に大きな魅力を感じた。もっと多くの人々に感動を届けていきたい。最初に思い描いていた形とは違うが、その想いを叶えることができる形を見つけることができた。
初めてのものに出会い、初めての感情に出会い、夢を持ち、諦め、新しい形に出会う。舞台は、私の視界と世界を広げてくれたものだった。