私は、双極性障害を患っている23歳の大学生。双極性障害は、鬱状態と躁状態を繰り返す脳の病気だ。鬱状態の時は、何をする気力もわかず、ぼんやりと「消えてしまいたい……」と思いながら、ベッドの上で天井を眺めて数日がたつ。躁状態の時は、焦燥感に襲われ、休むことなく体が動けてしまう。そのため、一見活動的に見えるが、突拍子もない行動で周りに迷惑をかけてしまうこともある。いまでは、服薬でうまくコントロールできていて、なんとか社会生活をおくれている。

そのため最低でも月に1回は心療内科に通院している。通院歴は長く中学生の頃からなので、かれこれ10年は超えた。何度も病院に足を運ぶことは、想像以上に大変だ。予約制の病院でも診察までの待ち時間はそこそこ長い。ようやくたどり着いた診察室は5分も経たないうちに次回の予約の話になる。そして、会計の順番を待ち、病院は終了。そして、薬局へ向かい薬の順番を待つ。私の場合、1錠を半分にした半錠の処方や、複数の薬を1つの袋に入れる一包化の処理があるため、だいたい1時間くらいは薬局で待つことになる。診察時間は5分だが、通院という行為は半日がかりだ。それでも私は、通院を続けている。

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双極性障害の薬物療法には終わりがないと言われている。アメリカの臨床データによると、双極性障害は服薬中断後の再発率は90%もあり、死ぬまで服薬を続ける必要があると、大学の授業で習った。しかし、私の担当医からはそのような話を聞いていなかったので驚いた。「なんで教えてくれなかったの?」という疑念がふつふつと沸き上がった。

私は何年もの通院の中で、担当医に何か理由を聞くという行為をしてこなかった。言われるがままに服薬し、聞かれた質問に答え、次の予約日を決めるという流れ作業だった。眠れないとか、希死念慮が強いとか、自分の症状を伝えて、薬を調整してもらうことはあれど、「なぜ?」「どうして?」「いつまで?」というような質問をすることがなかった。短い診察時間の中では、うなずくことしかできず、ゆっくりと聞きたいことを考える時間もなかったからだ。

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そんな時、大学の授業で「Ask me 3」という、診察室で患者が医師に聞くべき3つの項目を習った。これは、精神疾患のためのものではなく、風邪や骨折など些細なことでも押さえておくと良い3つの質問とのことだった。「What is my main problem?/何が問題なのか」「What do I need to do?/何をする必要があるのか」「Why is it important for me to do this?/なぜそれが重要なのか」。この3つの質問を患者側からすることで、短い診察時間の中でも必要な情報がわかるというものだった。

たった3つのシンプルな質問かつ、患者側が考える時間がなくともパッと聞ける質問内容だったので、私も実際に診察室で「Ask me 3」を使ってみることにした。すると、担当医から、私の治療のビジョンを聞くことができた。私の治療は、安定して社会生活をおくれる状態を維持することが1番の目標で、それに合わせて薬を調整しているらしい。増やしたり減らしたりすることはあるけれど、双極性障害にまつわる1種類の薬は完全になくすことはないので、これからも通院を続ける必要があるとのことだった。

それを聞いて、私は少し前向きな気持ちになった。薬が一生必要と言われたのに前向きな気持ちになるのは変な話なのかもしれない。だが、今まで私は出口の見えないトンネルの中を走っていた。いつよくなるのかもわからない、薬もいつまで飲み続ければいいのかわからない。とりあえず担当医の指示に従うしかない状態だった。だからこそ、担当医と同じ道筋とゴールが見えたことがうれしかった。

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私のゴールは服薬のない状態で生活することではない。服薬しながら、症状をコントロールして、安定した社会生活をおくっていくことだ。私は、これからも通院と服薬を続けていく。これから死ぬまで続く長い通院生活を、「Ask me 3」を活用して、ゴールを見失わないようにしていこうと思う。