1日目は全然話せるのに、2日目は少し緊張して、3日目は目も合わせられない。
全員にそうなるわけではなく、あなたにだけなんです。
あなたへの、あなただけに対しての人見知り。
私は人懐っこい方だと言われる。その言葉は自分にもしっくり来ていて、いわゆる末っ子気質というやつで。本当に末っ子として生まれたからなのだろうか。
特に年上の方へは失礼のない範囲で気兼ねなく声をかけることができる。個々人がひくボーダーを絶妙に読み取りながら、最初は固く徐々に柔らかく相手との距離をつめる。
懐に入ればこっちのもんで、今回もそうなると思っていた。
◎ ◎
私が同期と一緒に北海道へ出張したのはつい数日前のこと。
現地の管理の方々の業務研修及び自部署への展開を目的に、飛行機へと足を踏み入れた。マイナスの極寒の世界は容赦無く私の肌を刺しにきたが、そんな寒さも人の温かさが包んでくれた。
4泊5日の研修では、同期と私にはそれぞれの専属のアテンドがつき、同じ時間軸で動き、つきっきりで研修を受けさせていただいた。
目的以外はかなり自由度の高い研修ではあったものの、元々興味関心の高い分野の研修ということもあり積極的に質問しては実際の業務を体験させていただくこともできた。
自部署より規模がコンパクトな分調整がスピーディーに進む様子を目の当たりにし、自分たちもこうして仕事を進めることができたらいいなあという、研修後の構想も垣間見える、身のある研修だった。
そんな研修の中で、私はアテンドの方を好きになってしまった。
「初めまして!どうぞよろしくお願いします」
初めて会った時、ビジネス仮面で私は彼に微笑んだ。研修中その方と私はほぼ一緒に過ごした。真面目に研修を受け、ちょっとした休憩時間に仕事以外の話もたくさんした。
彼が好きなもの、私が好きなもの、最初は意識していなかったにも拘わらず少しずつ、彼の笑顔にフィルターがかかっていった。
◎ ◎
「おはようございます!」
2日目は少し恥ずかしくて、でもよく見られたい私の心が微笑みを生んだ。彼は特に変わることのない挨拶を私に返し、研修に臨んだ。少なくとも悪い印象はなかったようで、帰りに車でホテルまで送っていただいた。30分間の帰り道、助手席で彼の好きな曲を2人で聴いた。
私は車から降りると同時に、彼にも堕ちたのだ。
「おはようございます」
3日目は自覚した状態で、目を合わせるのも緊張した。それでも感じ悪くならないよう、必死に目を合わせて笑顔を作った。もちろん研修中はスイッチを切り替え仕事モードで全力で知識を吸収した。
ただ、ふと仕事モードから1人の睡蓮という人間に戻った時、私の人見知りはその人だけに過剰反応を示した。恥ずかしい、けど目を合わせて微笑みたい、けれど恥ずかしい。
そうして少しぎこちないまま3日目は終了した。
「ねえ、これだけお世話になったから皆さんに手紙書かない?」
「書く!」
3日目の夜、明日空港へ行く前にお礼の品と手紙を渡そうという同期の提案に私は食い気味に答えた。直接的な表現は正直不快に思うかもしれない。だから私は彼への想いを感謝に変換して、小さなメッセージカードにしたためた。
お菓子のラッピングの中に入れ、何も言わず感謝だけを述べ私はその地を後にした。
◎ ◎
「先日はお菓子と、それとメッセージカードもありがとうございました!」
メッセージに思わず頬が緩む。そう、私は同期の計らいにより彼と連絡先を交換することに成功した。
今回の研修で多くの学びを得た私は、本気で彼らの職場との事業計画を練りたいと思い、その想いは同期も同じだったらしく、関係の構築のために連絡先を交換した。その中に彼もいた、というわけだ。
研修が終わったからこそ言える熱い思いや理想を語ったり他愛のない話をしたり、ここ数日の話にも拘わらず彼とのやりとりは続いている。
なんでもない関係で、熱心に研修を受ける女性。彼にはそう映っているのだろうか。
真意は定かではないが、少しでも彼の心に入れるようスマホをフリックする。
やりとりの中で人見知りが影を潜める間は可愛い私を彼に見てもらいたいのだ。