高校1年生のある日、学校から帰ろうと靴箱の中の革靴に手をかけた。すると靴の中には1枚の封筒が。中学以来の親友からだった。なんだろうと思いつつ、すぐには開けずに鞄にしまって当時通院中だった病院へ向かった。病院の待合室で封筒を開けた。中から1枚の紙が出てきた。
「生まれてきてくれてありがとう。あなたの笑顔が輝いて幸せな毎日となるようにずっと祈ってるよ。ゆっくり歩いて行こうね」
紙に書かれていたのはSuperfly「愛に抱かれて」の歌詞をもとにした言葉だった。
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その頃、私は大きな悩みを抱えていた。家族とうまくいっていなかったのである。教育熱心な両親は、毎日のように私に勉強することを強要してきた。少しでもやる気がないと怒られた。勉強するための部屋は与えられず、リビングで両親の監視下で勉強していた。定期試験や模試の結果を持って帰る度に、ことごとく怒られた。頭をなぐられることもめずらしくなかった。浪人していた兄がいたからか、母はいつもイライラしている様子で、そのストレスが私にぶつかっているようにも感じられた。そんな日々が私には苦痛でたまらなかった。あまりに強いストレスで毎日身体中にじんましんが出るほどだった。生きるのをやめてしまいたいとさえ感じていた。そのことをひとりで抱えきれず、定期的に親友に相談していた。彼女は真剣に聞いてくれた。私の知り合いの中で誰よりも聞き上手だった。
そんな精神状態の時に、歌詞にあった「生まれてきてくれてありがとう」というメッセージが私の心にどれほど強く響いただろう。病院の待合室で歌詞を読みながら涙がぼろぼろこぼれた。
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家に帰ってから、この曲をYouTubeで聴いてみた。冒頭の「つらいときはいつでも泣いていいんだよ」というような歌詞が流れてきた瞬間、また私は涙が出た。これまで幾度となくこらえてきた涙があったのだろう。両親に怒られて泣きたくても両親の前では泣けなかった。泣きたいときは家族が寝静まってから、人目のいないところでひとりで泣いた。泣きたいときに流せなかった涙が、「泣いていいよ」の一言であふれるように一気にこぼれた。
翌日、彼女はこう言った。「あの歌詞は、私が伝えたいことそのものだった」
彼女は、話を聞いてくれるだけではなかったのだ。私の気持ちを誰よりも理解し、少しでもなにかできないかと考えてくれた結果なのだろう。彼女の優しさが心に染みた。
そのあとも、彼女は私にずっと寄り添ってくれた。毎日のように私の話を聞いてくれて、メールのやりとりもした。元々先生に相談するなんて私は思ってもいなかったが、彼女の相談した方がいいというアドバイスを受けて相談してみた。もちろん、すぐには解決するような問題ではなかったけれど、長い時間をかけて少しずついい方向に進んでいった。
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その間もたくさん苦しいことがあった。でも彼女は嫌な顔一つせずに私の話に耳を傾け、一緒に苦しみを乗り越えてくれた。生涯であんなに私の人生に寄り添ってくれた友達は、彼女が初めてだった。彼女がいなければ、今私がどうなっていたか想像もつかない。
あれからずっと、私は歌詞が書かれた紙を手帳にしのばせている。つらいことがあったとき、がんばりたいとき、その紙を見返したり曲を聴いたりする。私が生きる上で欠かせないおまもりだ。
彼女とは、大学生になった今でも月1ペースで会っている。もちろん楽しい話もたくさんするが、お互いの近況報告に加えて、中高時代を振り返ったり、これからどう生きていくかについて真剣に語り合ったりする仲でもある。どんな話でも気軽にできる相手だ。私の人生、彼女なしには語ることができない。私にとって、彼女の存在自体がおまもりのようなものなのかもしれない。今の私にできることは、そのおまもりを一生大切にし続けることだ。