「プリキュアの飛行機が見たあい」 

飛行機がよく見える公園で遊んでいると、娘が無邪気に言った。

プ、プリキュア……!!?

娘はプリキュアが好きだ。2歳の頃に何気なくテレビを見せたところ、目をキラキラと輝かせ、「もう一回」とせがむではないか。それまでの娘というと、テレビでアニメを見せようが幼児番組を見せようが、最後まで見れた試しがなかった。それがプリキュアを見せた途端、真剣に食い入るように見るではないか。なんならエンディングダンスまで披露するようになった。プリキュアで急速に成長する我が子を見て感動する私。それ以来、口を開けばプリキュアの話をする娘のために、プリキュアショーがあれば西へ車を出し、イベントがあれば東へ車を出す生活を送るようになった。すべては娘の喜ぶ顔が見たいがため。まさか自分でもこんなにプリキュアを中心とした生活を送ることになるとは思っていなかった。

だからこそ、飛行機を見たいという娘の願いも叶えられるなら叶えたいところであった。

とはいえ、こればかりは私の頑張りでどうにかなるものではない。確かにディズニーやスターウォーズ、ポケモン等の塗装がされた珍しいデザインの飛行機もある。実際、何度か娘もデザイン塗装のされた飛行機を見たことがあった。だから当然、プリキュアもあるはずだと娘は考えているみたいだった。

◎          ◎

「プ、プリキュアは流石にないんじゃないかな……」とは言えず、「見れたらいいね〜」と言うにとどめた。公式よ、頼む。娘のために飛行機を……! 私の祈りが届いたのか、その機会はすぐ訪れたのだった。

いつものようにプリキュアの情報をSNSで探していた時のこと。タイムラインをぼんやり眺めていると、『ひろがるスカイ!プリキュア×Peach コラボ決定!ラッピングジェット就航!コラボグッズやキャンペーンなども決定!』と書かれたニュースが飛び込んできたではないか。空をモチーフにしたプリキュアと航空会社Peachが就航11周年記念にコラボしたというのだ。本当にプリキュアの飛行機が誕生した。娘の願いが叶うかも。絶対に娘を喜ばせるぞ。

しかしである。現実はそんなに甘くなかった。次女の妊娠・出産と重なり、行こうとする日は台風が重なり欠航、娘の運動会、音楽会……。また今度また今度と先延ばししていると、あっという間に冬になった。

あとどのくらい運航するのかもわからない。当初発表されたニュースでは年内運航予定であり、終了予定日は記載されていなかった。それでも私は楽観視していた。自分の住んでいるところでは、飛行機はしょっちゅう真上を飛んでいる。その上、我が家は車で20分もあれば空港に着くという環境だった。

「まあ、なんとかなるっしょ」

◎          ◎

なんとかならなかった。よくよく調べてみると、近所の空港はJALとANAしか飛んでこないので、待てど暮らせどPeachは来ない。近くでも我が家から1時間かかる空港にしか飛んでこないというではないか。なんとか時間を作り行ってみるものの、肝心のプリキュアジェットが飛んでこない。国内、アジア周辺を飛び回っており、1日1回必ずその空港に飛んでくるという確証はないのだ。展望台も10時から17時という限られた時間。その時間内に離着陸をしなければ、見ることが出来ない。近所の空港はすぐそばに空港併設の大きな公園もあれば、河川敷もあるので、そこから見ることが出来る。時間も夜の21時までなら見ることが出来るので、時間の縛りがほぼないと言ってよかった。

軽い気持ちで見に行けないのか……。我が家は飛行機好きにはたまらない環境だったのではないか。今更そんなことに気が付いたものの、時すでに遅し。運航終了まで刻一刻と迫っていた。大慌てで飛行機の離着陸がわかるアプリをダウンロードして、運行状況を調べた。しかし待てど暮らせどPeachは来ない。

「お母さん、プリキュアの飛行機見れる?」と不安そうに聞く娘。きっとプリキュアなら最後まで諦めない。「大丈夫、絶対見に行けるよ」

それから少しして、プリキュアは最終回を迎えた。娘は切り替えが早く、新しく始まるプリキュアに夢中になっている。私はというとアプリをずっと見つめる毎日だ。「もう無理かな……」と諦めかけていると、お昼過ぎにPeachが飛んでくるという情報が。塗装はもう剥がれているだろうか。探しても確かな情報が見つからない。泣いても笑ってもこれが最後。とりあえず行こう。私は慌てて準備をすると娘を連れて空港へとすっ飛んでいった。

◎          ◎

冬の空港はとにかく寒い。展望台の周りには既に何人か集まっていた。寒いからか娘は「まだ?」としきりに言う。若干飽きていることに気が付きつつも、私は粘っていた。娘に飛行機を見せてあげたい。その一心で空を見上げていた。

「あっ、ほら飛んだよ」

娘に大声で叫んで振り返ると、「はやくごはん食べたあい」と、空さえも見ていない。

肝心の飛行機も塗装が剥がれて通常のデザインになっていた。

わ、私の苦労は一体……。ズッコケそうになりながら、空港を後にした。
寒空の下で飲んだコーヒーは染みるほど美味しかった。

こうして私と娘のプリキュアの飛行機を見る夢はあと一歩のところで叶わなかった。

散々な結果だったけれども、娘のために奔走した日々は決して忘れることはないだろう。今でもフライトレーダーで飛行機の運行状況を調べるのが日課になっている(なんで?)。

一年間という短い期間だったけれど、たくさんの感動と興奮をありがとう。娘のためにも(私のためにも)、またプリキュアジェットには天高く羽ばたいている姿を見せていただきたい。