大学生の頃、暮らしていた学生寮で仲良くなった子がいた。出身地は違えど、なんでも手を出してみちゃう好奇心と行動力と、たぶんそうしていないと自分の価値を認められない、生まれながらに「頑張る」がデフォルトだったんだろうと思ってしまう身の痛めつけ方をするところが共通していた。
こんな根幹みたいなところじゃなくて、経験してきた部活や音楽の趣味が似通っていたところ、小学生の女子のいざこざで、協調性があるばかりにいつも仲介役という名の板挟みになっていたであろうところもきっと似ていたと思う。いろんなきっかけがあって、彼女と仲良くなった。
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夜行性が多い寮生のなかでも、私達はさらに夜行性だった。毎日のように終電で帰ってきては、深夜2時に「風呂入ろ~~~」とお互いの部屋を行き来する。たまの休日が噛み合ったりなんかした日には、「明日は休みだ~!!!」と暴れながら、朝まで喋り続けた。
複数人が同室で暮らす寮だったが、あんたと同じ部屋になったらほんとに寝なくなっちゃう、と冗談を言い合い、寮母さんに同じ部屋にしないでくれと頼み込んだことすらある。私は彼女が好きだった。優しくて、朗らかで、しょっちゅう遅刻する私を笑って許してくれる人。
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彼女と出会って1年が経つ頃、彼女は、私の好きな人の彼女になった。相手は男女問わず交友関係が広い人で、交際が始まってからもいざこざがあったようだ。かつて彼を好きだった身としては、2人の仲が拗れてしまえと思うこともあった。受け取ってもらえなかった恋心をどこへやったらいいのか分からず、彼と過ごせる時間は悔しいけれど嬉しい。彼の周りをチョロついたせいで、あんなに仲良くしていた彼女を、私は随分傷つけただろう。
大好きな友だちに笑顔でいてほしいと思う気持ちと、バッドエンドを望む気持ちは両立した。相手が、彼以外の誰かでさえあってくれればよかったのに。
慌ただしい大学生活を過ごすなかで、2人の関係はいつの間にか終わりを告げていた。いつの間にか、じゃないと思う。知らせをどこからか聞いて心はざわめいたと思うのだが、その頃には私にも彼氏がいて、なんとなく気まずかった彼女とも昔のように話せる関係に戻りつつあった。
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彼女と出会って3回目の冬、彼女にも新しい彼氏ができた頃。バレンタイン前日にキッチンに向かうと、そこには彼女がいた。時刻は深夜1時、やっぱり私達は夜行性だった。
「バレンタイン前の女子寮っていいよね」「いつもキッチンいい匂いしてるよね」「みんなもう作ったのかな」「作ってるでしょ、何時だと思ってんの」
真っ暗なキッチン、換気扇の真下だけが蛍光灯で煌々と明るい。自然と2人並んでお菓子作りを始める。私はアップルパイ、彼女は何を作っていたんだっけ。お菓子作りが得意な彼女は、パイシートでラクをしようとして、それすら器用にこなせない私に何度もアドバイスをくれた。相変わらず、彼女は優しい。
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薄暗いキッチンでは、なんとなく今まで避けてきた、お互いの彼氏の話もサラリと聞くことができた。どんな人?どこで出会ったの?へえ~、いい人だね、優しいね、なんて、そんなことも聞けずにいた。彼とどんな別れ方をしたのかは知らない。けれど、彼女が今幸せでいることが嬉しかったし、どこかホッとしていた。オーブンレンジを覗き込んで振り向けば、大好きな友だちの笑顔がそこにある。
彼とも彼女とも友人でいたかった私は、一度も恋愛感情をあらわにしていない。だからこそ、昔の話をほじくり返して謝ることもできない。きっと、大好きな彼女を、私はたくさん傷つけたと思う。腹を割って話せる関係が友だちなのか、墓まで持っていくのが責任なのか分からない。ただ、今の願いは1つ。死ぬまで彼女とゲラゲラ笑っていたい。