中学を卒業する春、私は眠れなかった。
それは高校受験に対する悩みのせいではない。中高一貫コースからコース変更するかしないかで真剣に悩んでいた。そもそも将来大学進学を見据えて中学受験したわけではなかった私にとって、中高一貫校は場違いであったのかもしれない。

中学一年生の頃から先取り授業と英単語テストに追われながら、勉強ができて成績優秀だとマウントをとりたがる幼い心の持ち主だったクラスメイトと過ごす毎日。勉強ができるっていうのは素晴らしいことだけど、それ以上でもそれ以下でもない。

中学生ってどうしてこんなに幼いのだろうと今になっても疑問だけが残っている。

そんな中学生活から私が逃げ出したくなったのは中学三年生の夏だ。公立の中学校に通っている子なら、受験勉強まっただなかの時期だったはずだ。思春期真っ盛りに今後の人生がかかっている高校受験に挑まないで良かったのに、どうしてあんなに悩んでいたのだろう。

今では当時の自分を少し情けなく思うのだけれど、あの頃は目の前にある窮屈でどうしようもない学校が嫌で仕方なかったのだ。

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六月に定期考査があった。中学三年生ともなると中高一貫コースでは高校一年生が勉強する内容の授業をすでに受けていた。特に英語のテストでは英文も長くなり、単語が難易度を増していた。

テスト中ひとり勝手に焦っていた私は、想像以上に英文を読解する力がないことを思い知らされたのだ。静寂に包まれたテスト中の教室。今でも思い出すだけで冷や汗をかきそうだ。失敗した私は保健室に直行して、泣きじゃくった。

それから、私はもう教室に戻りたくなくなった。毎日、学業に精進しいつだってベストな成績を修めているクラスメイトと一緒にいると、私は心苦しくなる。この定期考査で飲み込んでいた本音に私はハッと気づかされたのだ。

本当にどうしようもなかった。そこから高校一年生の春に心機一転して立ち直るまでにも、すごく時間がかかったものだ。

「公立高校を受験するには出席日数が足りていない。成績も追いつく余地がないというところです」とある先生に進路相談して、すぐに返ってきた言葉を今になっても鮮明に覚えている。

たまに情緒不安定になるほど追い込まれた時に、勝手に脳内でリピートされる。そのたびに春を迎えることに苦痛を感じていた十五歳の私に一瞬で戻っていく。心も身体もあの頃のままだなんて大げさだけど、そう思うときもある。

公立高校じゃなくても、とにかく中高一貫から逃げ出したい。そして最後までわがままな私を受け入れてくれたのがフロンティアコースだった。

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コース変更できますよ、と担任の先生も安堵したように伝えてくれた。良かった。やっと私の新しい居場所ができた。フロンティアコースは公立の中学校から入学してくる子が大半を占めていて、特に部活に励むために県外からも多くの新入生を迎え入れていた。「フロンティアコースなら、中高一貫と違って伸び伸びと勉強できると思いますよ」今まで散々私のわがままを受け止めてくれていた担任の先生が、そう強く勧めてくれたのだ。

場所を変えるということは新しい環境に飛び込むこと。心機一転するために、コース変更することがあの頃の私にとって唯一の救いだったのかもしれない。

それから、やっとの思いで迎えた高校の入学式。私は朝から失敗してしまう。朝起きると緊張のせいで涙が止まらなかった。入学式の朝から泣いていたのは私だけだったと思う。これが卒業式の朝だったら、まだ理解できるのだろうけれど。

もし高校の入学式に戻れるとするなら、絶対に泣きたくない。堂々とJKです!と優越感に浸りながら、校舎までのあの坂道を歩いてやりたい。今だったら、それくらい青春のありがたみがわかる。
もう二度と戻ってこない十六歳の春。その通り過ぎた季節を、もう振り返らない。目の前にある人生を駆け抜けるまでは。