「やっぱり凡人だなあ」

エッセイコンテストの結果発表のホームページ。また、落ちたのか。そんな苦みとともに、自分の名前が印字されていないページを何度もスクロールする。こんな思いをするのは、1度や2度ではない。この3、4年、様々なエッセイコンテストに応募しては、苦い思いをし続けている。

エッセイストになるという夢に向かって、日々自分なりに努力してはいるものの、連戦連敗。「コンテスト主催者側に見る目がないんだ」といじけてみても、大賞に輝いた作品を読んでは納得する毎日だ。1000人に1人どころではない、私は凡人なのである。

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昔は書くことに根拠なき自信を持っていた。書く作文、書く作文、先生に強く評価され、全校朝礼で発表された小学1年生のデビュー作。自分の作文が連載を持っているかのように学年通信に掲示された中学生。オリジナル脚本で文化祭の全体2位の賞に輝いた高校生。全国的なエッセイコンテストで最優秀賞を受賞した大学生。

こんな輝かしい過去があるから、「書く」という営みに対する自信は、人一倍あった。だから応募するコンテストで、次々に大賞を受賞し、編集部に目を付けられ輝かしいデビューを飾る。そんな甘美な夢物語を描いていたのである。

しかし、現実はそんなに甘くなかった。冒頭に戻るが、応募する度に突き付けられる「落選」と「凡人」の2文字。段々と自分に嫌気がさしてくる。この3年間毎週続けていた、これだけは続けようと思っていたかがみよかがみへのエッセイ投稿も、「忙しい」を理由に自然とネタ帳とパソコンを開く時間はなくなっていった。

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再び筆を執ることにしたのは、祖父が亡くなったことがきっかけだった。祖父は89歳だった。

60歳離れた祖父と私は、月に1度は祖父の家で飲み会をする飲み友達であった。祖父の家を訪れると、「まよ待っていたよ」と満面の笑みで迎えてくれる。冷蔵庫に冷やしてあるから取ってきなさい、と毎回プレミアムモルツはキンキンに冷えている。

祖父は焼酎をヤクルトで割るという、聞いたことのない飲み物が好きだった。私はプレモル、祖父は焼酎ヤクルト割。2人で酒盛りが始まると、古今東西様々に話が飛んでいく。戦争の話、祖父の家業を立ち上げたときの話、昔の地元の話、ちょっと多めの自慢話。でも最後に話が飛ぶのは必ず祖父が愛した今は亡き祖母の話であり、家族の話であった。

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11月の飲み会から、5日ほど経ったころだったろうか。友達と熱海旅行していた私に、祖父が倒れたと母から連絡が入った。朝ごはんを食べた後ゆっくり散策してから東京に戻ろうとしていた。しかし連絡を見た瞬間、すぐに荷造りをした。駅に向かった。新幹線で東京に急いで戻った。

東京駅からまっすぐ病院に向かうと、親戚が集まる中、祖父がベッドで寝ていた。間に合った、そうほっとした。「おお、まよか」そうベッドから掛けてきた祖父の声は、少しか細かった。嫌な予感を振り払うように、私はいつもより明るく祖父との会話を盛り上げた。

祖父が会いたがっていた、生まれたばかりの曾孫が病室に会いに来ることになると、祖父に「まよご祝儀袋を買ってきてくれ、そしてお金を少し貸してほしい」とこっそりと頼まれた。病院の売店でご祝儀袋と筆ペンを買い、お金をおろして病室に戻る。「銀行員の私にお金借りるってことは、利息取るからね」と冗談めかして渡す。

すると祖父は「怖い孫だなあ」と笑った。曾孫に無事に初めて対面し、可愛いなあと涙ぐみながらお祝いを渡す祖父は、最後まで義理人情に厚く家族を愛していた。会いたい人に会い、言葉を交わし、そして次の日、せっかちな祖父は大好きな祖母へ会いに向かった。

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生前、祖父はある雑誌を愛読していた。その雑誌はあるエッセイコンテストを主催していた。私のエッセイ作品が受賞し掲載されたら、祖父はびっくりして喜ぶかなと思ったので、こっそり応募したこともあった。しかし、それも落選してしまった。

ああ、私の筆力がもっと高ければ。ああ、1000人に1人の才能があれば、もっと祖父孝行できたのになあと、お葬式で悔しくてしかたがなかった。でも、そんなとき、祖父が皆によくかけていた言葉を思い出した。「人生1度きりなのだから、後悔しないようにしなさい」と。

1000人に1人の才能などなくても、私という人間が書けるエッセイは私だけのものだ。そして、そもそも母方の曽祖父が、曾祖母が、祖父が、祖母が、父方の曽祖父が、曾祖母が、祖父が、祖母が、母が、父が、いなければ私はここに立っていない。10世代さかのぼると、私には1,024人もの先祖がいる。その誰一人がかけていても、私はここでエッセイを書くことができなかった。それはすごい奇跡だし、軌跡である。このエッセイは、1000人に1人の私のエッセイだ。

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オーケーじいちゃん、1000人の先祖リレーのバトンはしっかり受け取ったよ。そしてやっぱり諦めきれないから、なにより書くことが好きだから、もう一度書き始めるね。いつかじいちゃんの伝記を書くことも、私の夢の1つに加わったことだし。

凡人だけれど、そんな凡人でも人生は1度きりだから、後悔しないように今日もこうして書いているよ。そこから見ていてね。あと貸したお金は、次会ったときに利息たっぷりつけて請求するから、覚悟しておくように。

R.I.P.じいちゃん、愛するあなたにこのエッセイを捧げます。安らかに。