過去を振り返ると、時に心がざわめくことがある。
SNSを整理していたら、ふと目に入った元彼のアイコン。あの頃は有名画家の美しい絵だったのに、今では夕日に照らされたウエディング写真が輝いている。

どうやら彼は結婚したらしい。そう分かると色んな感情が渦巻いた。

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かつては私との結婚を夢見てくれた彼の言葉は甘く、私の心を魅了していた。仕事で落ち込んだり風邪をひいたりした私にいつも笑顔をくれる人だった。
「ふざけたことばっかり言って」と言いつつも彼のその優しさにすごく助けられ、支えられていた気がする。そんな彼の優しさに私は惚れ込んだ。いつしか私は、彼と共に歩む未来を夢見ていた。

「〇〇ちゃんと結婚したら幸せなんだろうな~」「一緒になったら…」とよく彼は口にしていた。彼もまた、彼女として、奥さんとしての私の姿を想像し、たくさんの願いを叶えようとしてくれていた。一緒によく行っていた居酒屋でもセレクトショップでもあの頃は必ず「お似合いですね」「奥様はどちらが良いなと思いますか?」「いい彼氏さんですね」とかって店員さんに言われていた。
それくらい彼が好きで、彼の好みに合わせて彼と並んで歩いていた。でもそんな彼と並ぶのがいつしか苦になっていったのかもしれない。

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古着好きのいつもお洒落な彼と、本当はシンプルなものばかりでたまにはすっぴんでもいいと思っちゃうズボラな私には無理があったみたい。あの頃は全くつけないアクセサリーも買ってつけてたっけな…。

時間は流れ、私たちは別れることになった。別れる原因は彼の転勤だった。彼は営業職で、大阪から東京に転勤したことによって物理的にも心理的にも私たちの間には距離ができた。
最初はお互いに日程を合わせて会うことができたものの、時間が経つにつれて、その頻度も少なくなって最後は連絡だけになった。
お互いの仕事が忙しくなる中、次第に連絡も途絶えたころに「別れよう」と1件の通知がスマホの画面に現れた。その瞬間、過去の彼との思い出が頭に浮かび涙がこぼれたが、同じく「そうだね、別れよう」と返事を返した。

その後「ありがとう」と送り合ったのが最後だった。
恋愛関係は終わったものの、彼の幸せを願う気持ちは変わらない。彼は私にとって、私の人生に大きな影響を与えた特別な人だった。

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ある日、彼は私に「知らない女性が煙草を吸うのは良いけれど、彼女が吸っているのは嫌だな」とぼそっと言った。灰皿をずっと貸していたのは私なのに。
彼自身は煙草を吸っているにもわらず、彼が私にそんな言葉を投げかけた。

その日を境に煙草は吸わなくなった私。

それからというものの換気扇の下でその灰皿に灰を落としていると、ふと彼を思い出すことがあるが、その度に懐かしさと彼の煙草の匂いとが蘇りフッと笑う。
色々なことを教えてもらい、今となっては良い経験であり、良い思い出でした。
幸せになってね、ありがとう。