好きだった人が、卒業した。

私は大学生だった4年前から2年間、叶わぬ恋をしていた。
2個年下の彼。
同郷で、浪人していたという経験があって、同じ授業を週1でとっていて、仲良くなるのに時間はかからなかった。
時々一緒に大学から帰って、ご飯に行って、適度な距離感で時間を過ごしていた。

しかし、週1で会える授業がなくなり、私の就活と卒論が忙しくなり、だんだんすれ違っていった。
授業が同じじゃなくなった途端、彼からの連絡の頻度も落ち、さらに別に好きな人がいることも彼の口から聞かされ、私が気持ちを伝えることはなかった。

◎          ◎ 

そのまま私は大学を卒業し、気づけばたまたま会った1年前の出来事を除いて全く会わず、連絡もとらなくなってしまった。
彼のバイト先は知っていたから、時々彼の自転車がないかバイト先を通る度に想っていた程度だったのだが、町に袴姿の女子達が歩いているのを見て、そういえばそろそろあいつも卒業なのか、彼のことを思い出した。

ずっと連絡を取っていなかったし、私は今同棲している彼氏がいる。
今更メッセージを送るなんて、なんだか図々しいのではないか。
こんな卒業のときだけ送ったからって、今更なんだ?と思われるのではないか。

でも……でも……

「卒おめ」

私なりの、色々な気持ちを隠した、それでも精一杯の祝福を込めたメッセージ。気づくと打って送信していた。指先が勝手に動いてしまった。

◎          ◎ 

少し後悔したし、照れくさいような、むず痒いような、色々なものが混ざった何かが胸に込み上げてきた。
ケータイを開く度に彼にメッセージを送った履歴が見れるのさえ恥ずかしくて、その日はケータイを閉じて寝た。

彼はだいたい週1程度でしかメッセージを返してくれない。わかっていたから、返信の速度は気にしていなかった。

ふとある日、そういえばあのメッセージ送ったの何日前だっけ、もう一週間以上経ってないか?と思い、メッセージの日付を遡って調べてみた。

1週間と4日間程経っていた。

嫌な予感がした。流石のあいつでも10日以上空けることはなかったのに。

調べようか迷った。やらない方がいいに決まっている。このまま気長に待った方がいい。
だいたい、私にだって今彼氏がいるんだし、今更どうこうしたい訳でもない。なにも焦る必要も気に病む必要も何も無いのではないか。

でも……でも……

やらなければいいのに。私は気づくと通話ボタンを押していた。
自分でも焦った。なにも話すことなんて考えていない。指先が勝手に動いただけだ。

◎          ◎ 

出たらどうしよう。どんなテンションで何を話そう。
めんどくさいって思われるかな。だる絡みって思われるかな。一年以上話してないのに今更何を話せばいいのだろう。
私に彼氏が出来たことも言ってないし、仕事を変えたことも、引っ越したことも言ってない。

空白の1年間の話ができるかな。
そんな淡いことを考えていたら、ケータイはいつの間にか無音になっていた。

安心したような、そうでないような。

でもまだ私の嫌な予感は消えていなかった。

気づくと、指先がまた勝手に動いていた。スタンプショップの画面を開いて、持っていなさそうなスタンプをセレクトする。

「○○はこのスタンプを持っているため…」

あ、私ブロックされてたんだ。

◎          ◎ 

一体いつされたんだろう。1年前は連絡ができたし数ヶ月前までプロフィール更新のお知らせがホーム画面に出てくることもあった。
卒業と同時に関係を一掃したかったのか、それともメッセージが来たのを見てブロックしたのか。

君の人生に、私はもう必要が無いというレッテルを貼られてしまった。もう二度と連絡が来ないと思われていたのだろうか。それとも連絡をしたくないと思われてしまったのだろうか。私には分からない。

彼のくれたメッセージを読みかえす。特徴的な文だけど、丁寧さもあって、まだ君の声で私は再生できるよ。

ねえ、人って、まず声を1番に忘れてしまうらしいよ。

彼氏がいても、私はまだ、君のことが忘れられないのかもしれない。