ある製薬会社が実施した調査によると、「女性だからという理由でキャリアを諦める人が10年目を境に急増する」そうだ。私は今年、ちょうど社会人10年目。まさに「壁」にぶつかっている。「妊活と仕事の両立」という壁だ。昨年の秋、不妊治療を始めたのだ。
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話には聞いていたが、不妊治療と仕事の両立は大変だ。まず、不妊の原因を探る検査の段階からスケジュールの調整に苦労した。「生理開始から何日目に来てください」「高温期の◯日目〜◯日目の間にする検査です」。なるべく土曜日や仕事の休みが取りやすそうな日の検査実施を希望しても「その日は予約がいっぱいで……」と言われてしまう。幸い、私の仕事は自分の都合で調整しやすく、会社も休みが取りやすい雰囲気である。それでも、度重なる仕事を休んでの通院に「こんなの続けていけるのかな」と思ってしまう。一通りの検査が終わり、我が家は人工授精から取り組むことになった。人工授精の段階では、まだ月に2回程度の通院で済んでいるが、体外受精にステップアップしたらもっと通院回数が増えるようだ。
無事に妊娠できたとしても、つわりに耐えながら仕事ができるのか?そもそも都会の満員電車に乗って通勤できるのか?無事に出産まで問題なく過ごせるのか?つわりが辛くて会社を休まざるをえなかった人、切迫早産で入院した人、全部身近にいる。自分の身に起きてもいないことをあれこれ心配して不安になってしまう。
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妊娠出産については致し方ない。ヒトは、女性しか子供を産むことができないのだから。でも、子育ては男性もできるはずだ。
聞くところによると、子育てとフルタイムの仕事は相性が悪いらしい。今は、どんなに早くても帰宅は夜7時頃になる。確かに、今の生活のままでは子供が寝るのは10時を過ぎてしまいそうだ。幼い頃は9時までには寝ていた記憶がある。子供が小さいうちは、夫婦どちらかが仕事をセーブせざるを得ないだろう。私は、もし子供が生まれたら、夫に1年間の育児休業取得と時短勤務をして欲しいと考えている。夫にもそう話した。その分私がフルタイムで働くから、と。理由は、私の方が少しではあるがお給料が高く、手当も充実していること。そして、夫は家業を継ぐ可能性があり、会社勤めを長く続ける可能性が低いから。合理的な理由だと思う。でも夫は、無理だ、と言う。そんなの前例が無いし、「なんで男のお前が」と言われるよ、と。私も口で言いながら頭ではわかっている。サラリーマンの世界で前例が無いことに挑む難しさを。男性の育児休業取得が普及してきたとはいえ、それでもまだ、「育児を主に担うのは女性」という考えが世間には多いことを。
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これまでの人生、女であることを不利に感じたことはなかった。私には弟がいるが、「女だから」「男だから」と家庭で言われたことはなかったし、教育の機会も平等に与えてもらった。学校生活において男女の差を感じたことはなかったし、会社に入ってからも仕事の内容や昇進のスピードに差はなかった。3年前に結婚したが、家計の負担は半々。家事については、お互いの苦手な部分を補って生活している。それが、である。子供を持つことに関しては、女の側に負担が偏っている気がしてならない。
私は、自分の力でお金を稼ぐことを諦めたくない。せっかく働くのであればスキルアップもしていきたいし、昇給もしたい。「妊活と仕事の両立」、「子育てと仕事の両立」。今ある壁を乗り越えられたとしても、まだ見ぬ壁が女である私には立ちはだかっている。そして、その壁を乗り越えて行く方法を、私はまだ知らない。「なんで女の私ばっかり……」女であることを少し恨んでしまっている。