私と彼は付き合って4年8ヶ月とマイナス4ヶ月。

大学のサークルで出会い付き合い始めた私たちは、それはそれは大学生活を謳歌した。

週に2回あるサークルの練習とその後の飲み会。家が遠い私は終電を逃しては、彼と一緒にホテルに行き翌日はダラダラと授業に向かうのだった。

チャットモンチーの「Boyfriend」くらい性質の違う私たちはそれはそれは喧嘩をした。
タバコを吸わないといったのに吸っていた、デートの約束を忘れた、連絡を全然返さない、など基本的にはだらしないBoyfriendに私が攻撃力100で攻めることで始まるものだった。

しかし、そんな喧嘩も仲間と集まり酒を飲みホテルに行けば忘れていた。
お金がなくても、時間と余裕と無責任に想像できる未来があればへっちゃらだった。無敵だった。

◎          ◎ 

そんな私たちの関係が変わり始めたのは、責任ある未来を見なくてはならなくなったとき。就職活動が始まったとき。

楽しくて楽しくて毎日が忙しかった私に、それまで自分の将来を考えることはなかった。見てみぬふりをしていたのだと思う。

やりたいことは自然とわかるものだと思っていたが、どうもそうでもないと気づくと生真面目な私は説明会やら自己分析やらに勤しみ始めた。

結局自分のやりたいことが何なのかもわからず、自分を分析すればするほど自分もわからなくなった。

時間も、余裕も、無責任な未来もなくなって、自分のこともわからなくなったとき、彼のことが好きかもわからなくなっていた。

◎          ◎ 

私がなんとなくで内定をもらって就職先を決めた時、彼はまだ本気で就活をしていなかった。
それでも、ちゃんと自分の望んだ業界にギリギリ入れてしまう彼のちゃっかりしているところが何とも憎く感じられた。

就活が終わり卒業まで半年を切ったところで私が別れを切り出した。ずっと抱いていた違和感を飼い殺しながら、なかなか別れを決意できなかった慎重すぎるところは私の短所だ。

呼び出した彼は、こんな時だけ時間通りに来た。
勘づいていたのだろう。
お台場の公園で、彼は笑いながら泣き、私の申し出を受け入れた。
こんな時でも絶対に私に縋ったりしない、ダサいことはしない、そんな姿になぜか泣けた。

ここまでが私たちの第一章。
この後4ヶ月のインターバルを挟んで、現在も続く第二章が始まる。

◎          ◎ 

インターバル中私は違う男性と付き合うことになった。
私のことをとても好きだと言ってくれる人。
しかし、ふと思い出すのは、私のことを好きなのに私の気持ちを優先して泣き笑いながら送り出してくれた元Boy friend。

新しい恋人が優しくしてくれるたび、当時は気づけなかった元Boy friendの優しさを思い出していた。

デートに遅刻するのは日常茶飯事だけど、私が遅れる時は文句言わずにいつまでも待っててくれる。
欲しい言葉はくれないけれど、決して私が傷つく言葉も言わない。
王子様みたいな優しさじゃないけど、飾らない堂々とした優しさが心地よかったんだと今更気づく。

あんなに慎重に別れを選んだはずなのに、離れてからしか気づけなかった愚かな自分。

なんて身勝手な女なのだろうと自分で自分に辟易するのだが、舞い戻ってきた私のことを彼は再び受け入れてくれた。

別れていた間何があったのか、とか何で戻ってきたのか、とか何も聞かずに空白の4ヶ月をなかったもののようにしてくれた。

◎          ◎ 

昔の私なら、何があったか知りたくないの?とでも問い詰めてしまいそうだけど、離れたおかげで近すぎて見えなかった彼の作る優しさの形を確認することができた。

大学を卒業して自分の決めた現実を生きる中で時間も余裕もなくなってすれ違ってしまう時期もあったが、乗り越えることができた。

今では一回のデートで何回タバコを吸うかジャンケンで決められるし、彼を待つ時間を計算して家を出るというスキルも身につけた。
第一章では彼に寄り添うことができなかった私も今では少し変われているのかな。