私には、世の中の「母親」の皆さんに、絶対に聞いてほしいお願いがある。聞いてくれるんだったら全国津々浦々足を運んで土下座でもなんだってする、そのくらい深刻なお願いが。

お願いだからどうか、あなたの子どもがのびのびと心穏やかな毎日を過ごせるように、心血注いであげてほしいのだ。

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私には精神疾患がある。初めて精神科にかかったのは18歳、高校3年生のときだった。

幼いころから、今思うと職場の上司と接するときのような緊張感で親と対面していた。
特に虐待を受けていたわけではないのだけれど、というか私自身も具体的に「どこが変だった」ときちんと説明できず心苦しいのだが、とにかく幼少期の私はなぜか「親の求める人物像を完璧に演じなくては」とずっと気を張っていた、と今になって思う。
小学生の頃から重度の肩こり、血圧は祖父の危篤時と同じくらいしかなかったため立ち眩みもひどく、身体的にも異常はしっかり出ていたのだが、その原因がストレスであるということには誰も気づかなかった。

それもそうだろう、「親の求める人物像」、つまりは明朗快活なクラス委員長を私は完璧に演じ切っていた。成績優秀でしっかりもの、休日には決まって母親と買い物。いつも楽しそうに大声で笑う私がストレスを抱えているなんて誰も疑わなかった。

そして、高校3年生。指揮者の大役を務めた合唱祭と部活の引退試合を2日連続でこなしたあと、私はあっけなく、こわれた。

薬を飲んで寝こけていた私はすぐに学校に連れていかれた。親も先生も、予想外の事態にただ驚いていた。私がいつもと変わらない様子だったことにも。
様子が変わったのは、担任の先生が私に「どうして」と投げかけた時。笑顔を崩して、顔を歪めて、涙をこぼしながら、誰も―私自身すら思ってもみなかった言葉が出てきた。「家族が嫌いなんです」と。

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自分の身に降りかかったことを理解するために、心理学など、さまざまな分野の勉強をした。わかったのは、親というのは子供にとって、神にも近しい存在だということ。
赤ん坊は親がいないと生きていけない。嫌われたら死んでしまうから、文字通り必死に、親に好かれる自分になろうとする。

私の不幸はそれを完璧に演じ切り、自分自身の感情すら押し殺せる能力があったことだった。でもそうでなくても、親が白といえば黒でも白と覚える。
そういった、子供が子供でいられず何らかの役割を背負わされる家庭を「機能不全家族」と呼び、日本の家庭の8割がこれに該当するとする研究もある。この8割すべてが私ほど重たい末路をたどるわけではないにせよ、私にはこの数字はとても恐ろしく思える。

子供自身が押し殺している感情を見つけるのは難しい。事実私の親は、30年かかってまだできていない。「明朗快活な委員長」が本当の私だったと今でも信じて疑わないのだ。
だから、そうなる前に、すべてのお母さんたちに伝えたい。
あなたの子供が、どうか白を黒黒を白と言うように育てないでほしい。
目に映ったものをそのまま答えていいんだと、ここは自分の思うとおりに動いていい場所なんだと、覚えさせてほしい。

「8割」―――ここに該当する家庭が、ひとつでも減らせるよう願っている。