衝動的に動いてしまうことって、そんなにないと思っていた。私はどちらかというと考えてから行動するタイプで、何かをしようとするときにはざっくりでも計画を立てておくし、お店などは基本的に予約をしてから行く。行き当たりばったりを楽しめる人もいるのだろうが、私はあまり好きではない。

それでも、とっさの思い付きで足が違うところへ向かってしまったことがあった。それはわずかに4か月前の話。

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その日、私は普段通りに出社し、仕事をこなし、お腹が空いたのでお昼ご飯を食べようとオフィスを出た。何にしようかな、蕎麦かな、定食かな……と一瞬考えたが、次の瞬間に決めた行先は「メンタルクリニック」。

当時は精神的にかなり参っていた。仕事が忙しく毎日1時間以上残業しているような状況に加え、社用携帯には夜でも週末でも連絡がくる。対応までする必要はなかったが、通知が来ると見てしまうし心が休まらなかった。強制されていたわけではなかったが、退勤後や土日にパソコンを開くこともしょっちゅうだった。

会社は学校ではないのだから、責務を果たすべきということは頭では理解している。

それでも、こんなに努力しているのに褒められたり感謝されたりすることはなく、連絡が来るのは何かの依頼かダメな点の指摘。仕事と生活の境目が曖昧な働き方には多少慣れてしまっていたところがあったが、それ以上に「なんのために働いているのか?私は何を目指していたんだっけ?」となっていた。

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衝動的にメンタルクリニックに駆け込んだ日、空腹ではあったけれど、そんなことよりも心が壊れてしまいそうでなんとかしないと、と思った。食べることが大好きで、どんなに眠くても空腹だと眠れなくて何か食べてしまうような私が、食事を「そんなこと」と思った時点でかなりの異常事態だ。

平日のお昼時だというのにとても混んでいた。老若男女問わずいろんな人がいたし、午前の診療終了間際に予約なしで駆け込んできたサラリーマンもいた。今の日本はメンタルを病んでしまう人がこんなにいるのか……と初めて実感した。

ここに来ている時点で私もその1人なのだろうし、駆け込みサラリーマンに至っては状況がほぼ一緒だ。

お昼休みに来ているから1時間以内には戻りたい旨を告げると、比較的すぐに呼んでくれた。医師の診察を受け、今感じていることを話しながら涙が出そうだった。

思えば、家に帰っても話せる人がおらず、普段一緒に過ごしている同僚たちは同じ状況なわけで、自分がつらいと感じていることを人に話す機会がなかった。そのこともつらさに拍車をかけていたのだろう。

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後日、軽度の適応障害の可能性があるという診断結果が出た。診断書も出せますと言われたが、会社に診断書をつきつけて休みをもらいたいとか、そういうことではなかった。むしろ衝動的にメンタルクリニックに飛び込んだ日も何食わぬ顔で事務所に戻り、上司にも同僚にもそんなことは言わずにいつも通り定時を過ぎても仕事をしていた。

言ったらその場で帰されそうだと思ったし、弱音なんか言うもんかと思っていた。処方してもらった抗うつ剤を飲んだら少し心持ちが楽になったので、それで乗り切っていた。

今後の人生を考えた時にこの会社で働き続けるのは限界だと判断し、2か月後には退職した。結局最後までメンタルをやられていたこと、抗うつ剤を飲んでいたことは隠し通した。言動からバレていたかもしれないが、自分から言うことはしなかった。

ご縁があって転職活動もスムーズにいき、少し休んだら幸いなことにメンタルは全回復したので今は新しい職場で働き始めたところだ。退職前の数か月は苦い思い出ばかりで思い出したくないことも多いが、衝動的にメンタルクリニックに飛び込むほど追い詰められていたことには自分でも驚いているし、自分の限界を知ることができた経験だと思っている。