わたしの一番好きな家事は、「自分が食べる分の料理」だ。

料理自体はそんなに好きではない。作るのが面倒なときもあるし、なんでもおいしく感じる幸せな舌をもつわたしは、味見をしても十分なような味がうすいような、でも何を入れたらいいかわからないような堂々巡りに陥ってしまう。

それでも、自分しか食べないものを作るときは料理が楽しい。おいしくなくても構わないし、わたしなら大抵おいしく食べられるからだ。 

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働き始めて一人暮らしをしていたとき、仕事の日は帰りにスーパーやコンビニで買って帰ってしまうことが多かったけれど、元気が残っている日や休日は自炊することがあった。

思い出すのは、朝昼兼用の豪華なサンドイッチ。午前11時頃にようやくベッドから起き上がった休みの日、もう朝ごはんの時間じゃないな、とぼんやり思いながらとりあえず顔を洗う。予定は何もない。普段はバタバタして用意できないようなサンドイッチを作ろう、と小さなキッチンに立つ。

スクランブルエッグを焼いて塩コショウをふる。パンの上にのせたらそのままのフライパンでウインナーも焼くからちょっと焦げがついてしまうけど、まあいいか。スーパーで買ったカットサラダものせて、ケチャップをかけたら完成。それを録画していたテレビを見ながらゆっくり食べるのが、最高に自由を感じる休みの過ごし方だった。

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適当なスープもよく作った。冷凍野菜とウインナーやベーコンをお鍋に入れて、目分量で水を入れ、めんつゆとみりん、たまに塩コショウやコンソメで味付けする。それだけの雑なスープ。誰かに食べさせたら、なんじゃこれと言われてしまうかもしれない。でもそのシンプルな味が好きだった。いつも作りすぎて次の日にも食べることになるけれど、あたたかいご飯を食べている満足感があった。

初めてのカラアゲは失敗した。油ハネの怖さと後処理の大変さで、揚げ物を作ったことがなかった。「得意料理はカラアゲ」に憧れて見つけたのが、フライパンで揚げ焼きにするレシピだ。鶏肉に味を染みこませて、ひっくり返しながら揚げていると、みるみる黒くなってきた。

揚げる前に鶏肉の表面についたタレをもっと落としておけばよかったのかもしれない。焦げて見た目は悪くなったけれど、味はカラアゲだった。なんだ、案外おいしいじゃないの。リベンジしようと思いながら、まだできていない。

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一人暮らしは嫌いではなかったが、2年ほど前に転職して実家に戻った。料理するときは家族の分も一緒に作ることが増えたが、いつも味がうすくないか、逆にからすぎないか、家族の反応を見ながらそわそわしている。もっと一人暮らしの間にいろいろ作って上達させておけばよかった。

やっぱりわたしは、自分のご飯を作るのが好きだ。好きなようにできる時間の余裕、大雑把でも構わない気楽さ、失敗しても自分しか食べないからできる挑戦の楽しさ。そんな一人暮らしの日々を思い出す。たまには気ままに豪華なサンドイッチを作ってみようか。