「部署異動、してみる?」

社会人2年目が終わろうとする時だった。
新卒で入社した小さな会社。同県に2店舗しかなく、部署異動と言っても全社員とは顔見知り。それでも即答はできなかった。

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そもそも私は、入社2年目になる時に店舗異動をしている。
小さい会社だし、新入社員もすぐ戦力にならないと回らなかった。上も下も関係なく、全員で協力してなんとか一日を終える。1日12時間会社に拘束されていた上に、休日も同期や会社の先輩と出かけたりした。1年を終える頃には、強いチームになっていた。

やっと楽しくなってきたのに、そのタイミングでの店舗異動。
2度目の部署異動が提案だったのに対し、店舗異動は強制だった。
人事異動とはそもそもそういうものなんだろうけど。

部署は変わらないから、業務的に何か新しいことを覚える必要はなかった。
それでも異動した先の店舗での動き方の違い、人間関係をまた一から構成する気力、新人育成。それらが私の表情をどんどん暗くしていく。

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やる気がみるみるうちになくなっていく様子は、きっとほとんどの人にバレていた。でも学生じゃないし、仕事は仕事。そう割り切っていたし、やる気はなくても文句は言われたくないから、電話は誰よりも早く取った。お客様対応だって、新しいプロジェクトだって、気乗りはしなかったけどきちんとこなしていた。
心の中で、こんな会社辞めてやる、と思いながら。

なぜそれほどまでに心が荒んでいたのか、今では不思議なくらいだ。
多分、それほどまでに1年目の社会人生活が楽しくて、無理やり異動させられた、と拗ねていたんだろう。

異動してからやっと1年経とうとする頃の「提案」だった。
いっそのこと、また強制的に異動させてくれたらよかったのに。
「無理やり異動させられた」と思っている人と同じ人が、真逆のことを考えている。

今回は部署異動。業務内容はもちろん、顔は知っているけど関わりはほとんどない人たち。しかも本気で辞めようと考えていたから、今更異動なんて。

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「1週間後に、答え聞かせて」

学生の告白じゃないんだから。
そう心の中でツッコミながらも、即答で「異動はしないです」と答えられない自分がいた。

ありがたいことに、後輩には慕われていた。仕事終わりによくご飯に行ったし、先輩からも「仕事が早いね」と褒めていただけることも増えていた。
何が嫌って、楽しく働けていない自分自身の、このどうしようもない気持ちなのだ。

本当にギリギリ、返事をする当日の朝出勤するまで、答えを出せなかった。
大体のことは直感で決めてきた人生だったけど、今回は何も感じられなかった。

上司を前にして、自分の口から出た答えは、
「異動させてください」
口から出た瞬間、やっぱりそうなんだ、とどこか他人事みたいに感じていた。

今ではこの時異動して本当によかったと思っている。
上司にも辞める可能性があることを伝えた上での、異動だった。よく許可したよな。良い職場だった。だった、という過去形でもわかるように、私は退職という道もその後選ぶことになる。

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結果その部署ではまたさらに強いチームになれた。全員で同じ目標を目指し、1人が数字を取れない時期は誰かがそれをカバーする。解決策を考える。
「働くのが楽しい」久しぶりにそう思えた。

社内の表彰で「ベストチーム賞」にも選ばれることになる。
この時表彰台から見た景色は、今でも瞼の裏に鮮明に映し出せる。

自分で出した答えを正解にできるよう、今日も小さな選択を重ねている。