私は"愛情"というものの定義がわからず、何をもってしてみんな、愛を感じているのかが全くわからなかった。
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駅ですれ違う、街ゆくカップルの愛と信頼に満ちた顔を見れば、その前頭葉の発達した、前方へと突き出た額にキン肉マンのごとく"愛"というシールをひとりひとり貼り付けて褒めちぎってやりたくなるほど、自分と他者との圧倒的な愛情神経の差を感じて生きてきた。
「愛って、どこで学んだんですか?もしかして、私が学校に行っていなかった中学生の頃に、義務教育でみなさん学んだんですか?あら〜、行っときゃよかった」
と、聞いてまわりたくなるほどに。
機能の良くない頭で考えて、思考を粘土のようにこねくり回して、ああでもないこうでもないと独りごちる。
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"愛など存在はしない この恋もどうせ終わるさ"という歌詞の曲ばっかり聞いて、ずっと自分を投影していた。そして、相手からの愛情を拒否して自分で終わらせてきた。それも対面ではなく、スマホひとつで一方的に「じゃあね」だから、良くなかった。
好きという気持ちが、よくわからなかった。
でも、今の彼氏は適度な距離感で適度な愛情をたっぷり注いでくれる。私が嫌いな外でのイチャイチャもしないし、わがままなことを言っても丸ごと好きでいてくれる。
トレーディングカードをトレードするように、世の中は何かと引き換え交換しなきゃいけない。対価が必要で、それにはこちらの何かを差し出さなければ相手に悪いのではないか?と、グルグル考えては自分には何もないことを嘆き、憂いた。
どうやら、愛においてはそんなの関係ないらしい。
今の彼氏とは付き合って5ヶ月目に入る。まだまだ愛情育成中。基本的にいつも私は全身全霊全力真剣(マジ)交際なので今回も結婚を前提に付き合っている。
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3ヶ月目の頃に、彼氏の誕生日があった。
その1週間前に東京に出かけたため、そこで「そういえば来週は誕生日なんだった」と思い出し、ビュリーで自分用のリケンデコスのボディオイルと共に、アセテート製のクシを購入。
家に帰ってから、ホワイトデーも近いし、せっかくめっちゃ好きになった人だし何か作りたいと思い、Amazonで彼氏が好きなハンギョドンのクッキーキットを見つけて注文し、クッキー作りに挑戦した。
私は、家庭料理はまあまあ美味しくできると自負している。ただ、お菓子作りとなると今まで幾度となく失敗してきた。
高校生の頃に鍋でごまプリンを作ろうとして沸騰して溢れさせてしまい全ておじゃんになってしまったり、パウンドケーキを作ろうとしたら何故だかオーブンが火だるまになりかけて、急いでキッチンの棚からボールを取り出してお水をかけて鎮火させたりと散々な有様だった。
だからお菓子作りはちょっぴりトラウマがある。
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生地を綿棒で薄くして、ハンギョドンの型をくりぬく段階で疲れてきて手先が雑になりかけた。
が、彼氏の喜ぶ顔を思い浮かべて、愛情神経を活発に活動させながらチョコペンで困った顔や笑った顔の表情とともに愛を入魂していく。
愛が成分表の一番目に来ているクッキーを彼氏より先に食べたのは、父親だった。
自分の舌に自信がなかったので味見に食べてもらったのだ。
彼氏の誕生日が来て、お祝いの手紙と共にハンギョドンのクッキー、ビュリーのクシ、母親が忍ばせてくれたハンギョドンのタオルキャップを紙袋に入れ、食事に行く前に車の中で渡した。
すると、「胸いっぱいすぎる」と泣くほど喜んでくれた。
ラッピングしたクッキーを開け、2人だけの暗くて狭い車内にサクッと小気味のいい音が鳴り響く。
「今まで食べたクッキーの中で、本当に1番美味しい」
その言葉で、過去のおっちょこちょいな失敗もこの日のためにあったんだなぁと私まで涙ほろり。
彼氏の誕生日を通して、「愛ってこういうことなんだ。愛が一番だなぁ」と、アイフルのCMのようなことを思った。
そろそろ自分の額にも"愛"のシールを貼る頃がやってきただろうか。