私の母は美人で、頭が良く、家事スキルが高い。

ぱっちり二重でありながら、鼻と口は良い意味で特徴がなく印象が薄い。輪郭も縦にも横にも広がっておらず、難が無い。高校の時には、クラスの男子が作っていた「付き合いたい女子ランキング」で1位を獲得したそうだ。体型も、肩幅が狭く女性っぽい可愛らしさがある。年齢を重ねても一切太ることなく、40キロ代前半をキープしている。

そして、札幌市内で5本の指に入る学力レベルの高校に通っていた。そのなかでも学年10位以内の成績を収めていたのを、たまたま出てきた通知表から知った。
実家はいつも掃除が行き届いている。そうでないと気が済まないタチだったのだと思う。料理もかなり上手くて、高級食材は使えない家計のなかで工夫あるものを作ってくれていた。レシピサイトで有名になり、家に雑誌の取材が来たこともあった。

母が持つこれらのプラス要素、私は一切引き継げなかった。顔は父に似て地味で平らだし、肩幅は広くてゴツイし、頭も中の中だし、掃除も料理も出来ない。
そんな私だが、置かれている環境を考えると母より恵まれているとも言える人生を歩んできた。

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母は勉強が出来たにもかかわらず、大学に進学しなかった。実家がめちゃくちゃ貧乏で、長女だったからである。高校進学の時点で、優秀な成績もお構いなしに、働きに出てほしいと考えた祖母から定時制を薦められたほどだったという。

地元の国公立大学を一つ受けていたものの落ち、滑り止めを受ける余裕はなく、就職。

1年間働いて、貯めたお金で専門学校に通うも、2年生になる前に祖父が多額の借金を背負って貧乏に輪がかかり、退学。この時点で母の履歴書は「色んなことをすぐに辞める人」そのものな出来になってしまったため、まともな企業は雇ってくれなくなったそうだ。

ちなみに祖父の借金は、ともに会社を運営していた人の保証人になったせいで背負ったものだったのだが、その人の娘2人はそこまで頭が良くなかったにもかかわらず短大に通っていたらしい。2人とも母と近い年代とのこと。

世の中とは理不尽なものである。

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そんな母比べると、私は国立とはいえ大学に行かせてもらえたし、父は借金を背負っていないし、退学もせずに済んだ。運に恵まれて、かなり合っている企業に就職も出来た。

このような自分の状況を、少し後ろめたく思う。

私は母より全ての点で劣っているのに、恵まれてしまった。そんなこと思う必要がないことは分かっているが、考えずにはいられない。

母もきっと同じことを思っている。私がこの子と同じ環境下にいたらもっと努力して良い結果を残したのに、と。そんなことは絶対言わないし、人間的な理性がある人だから、考えることもしないようにしていると思う。けどきっと、彼女の胸の奥にはこの思いが眠り続けている。

ごめんね。でも私の精一杯はこれなんだ。
届くはずのない、届けるつもりもない謝罪と言い訳を胸に、私は今日も1人暮らしの汚ねぇ部屋で化粧も落とさず寝落ちする。