「子を持って知る親の恩」ということわざがある。私の場合は娘が大きくなるにつれて、母に対してことわざとは逆の感情になることがある。
私は3人兄弟の長女で、「お姉ちゃんなんだから! 自分のことは自分でして」と言われて育った。母に抱っこしてもらった記憶はないし、いつも母の腕には弟がいて幼い私はうらやましいと思っていた。小学生のころ、母が弟たちに甘く私には厳しいと悩んだ。ある時、思い切って母に「お母さんは私のこと、かわいくないの?」と聞いたことがある。母は少し考えて「やっぱり小さい順にかわいいかな」と笑顔で言ったことは数十年たった今、思い出してもゾクっとする。
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思えば母には小さいころから否定されることが多かった。最初に否定された記憶は幼稚園まで遡る。象の絵にぬり絵をした時のことだ。私は象をピンクでぬり背景を薄い紫でぬった。先生に「かわいくできたね!」とほめられ、ワクワクしながらその絵を母に見せると「ゾウさんは何色してる? ねずみ色でしょ!」と叱られた。しかも、幼稚園バスを降りた直後だったのでみんなの前で怒られた。私の絵を見ながら「あぁ、恥ずかしい」と。すっかり自信を失った私は、周りの様子を見ながらしか絵を描くことができなくなった。
中学生になると母が期待した成績ではなかった時、無視されるようになった。2週間無視が続いた時には精神的に本当に堪えた。それから「次もダメだったらどうしよう」と試験前に不安感と腹痛に襲われるようになった。でも、母には相談できなかった。高校入試当日、いつもの不安感と腹痛に襲われ試験に集中できず、第一志望の高校に不合格だった。「ダメだった」と言った瞬間「何やってんの! まったく! バカじゃないの!」と怒鳴られた。この時は「いっそ消えてしまいたい」と思った。大学入試でも高校入試ほどではなかったが、不安感と腹痛で試験に集中できなかった。
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大学入学を機に私は家を離れた。すると、いつも感じていた不安感がなくなった。いつしか私は試験前だけではなく日常的に何かに怯えて生活していたことを自覚した。大学生活では友人に恵まれ、アルバイトでは上司にほめられることで少しずつ自分を肯定することができるようになった。それまでは母に「ここぞという時に力を発揮できない。詰めが甘い」と言われ続けた。私は自分をずっと「ダメな人間」だと思っていた。
夫と結婚した時、子供を持つことへの不安を何度となく話した。子供は好きだし欲しいと思っていたけれど、良い母親になれる自信がなかった。子供が欲しい気持ちの方が勝り、今は女の子の母親をしている。ただ複数の子供を分け隔てなく育てる自信は持てなかった結果、娘はひとりっ子だ。
私が子育てをするにつれて、母に抱く感情は複雑だ。「私のこと、かわいくないの?」と勇気を振り絞って聞いた小さかった私を今の私なら抱きしめてあげたいと思う。もし、娘がこれから人生の節目に一生懸命やっても失敗するようなことがあったら、𠮟咤ではなく励まし支えていきたいと思う。
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大型連休も年々、実家が遠のいてしまっている。弟達の帰省と一緒になりたくない。大人になった今でも母は弟達を溺愛していて、中学生になった私の娘が見てもそれを感じるほどだ。
母は私よりも10歳以上若くして母親になった。そこには私が知り得ない苦労もあったと思う。大人になった私から見ると、母は決して器用なタイプではない。母なりに3人の子育てを一生懸命したと思う。生んで育ててもらったことに感謝の気持ちはある。でも、やっぱりもっと弟達のように愛されたかったと思わずにはいられない。