私の母、Tちゃん。天然で少しおっとりした感じのアラ還女子。スーパーでの買い物中に、よそ見をしてはカートで何度も人に突っ込みそうになっていて危なっかしい。私の友だちが絶賛するほど料理が得意で、食べることも大好きだけど実は少食。名前で呼び合うくらい、私たちは仲良し親子。母親というより友だちみたい。
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周りのみんなほどではないけれど、私が中学生でプチ反抗期のとき。よくTちゃんに叱られていたし、言い合いバトルになったこともあった。でも、Tちゃんはあまり怖くない。何なら犬屋敷家のドン的な存在だった祖母と比べたら、怖さレベルは1/10にも満たない。祖母も基本的には優しい方だったけれど、私を育てる上で祖母はムチ、Tちゃんはアメの役割を担っていた。
母親は1人。でも、まるで2人いるようだった。私に対してTちゃんはほぼ甘々な状態で、祖母は人生の厳しさをしっかり教えてくれた。私に勉強を教えるとき、ヒント(ほぼ答え)をいっぱいくれたのがTちゃん。それに対して、ほんの少しヒントを与えつつ、私が自分の力で答えに辿り着くように鍛えてくれたのが祖母。私のことを大切に思うからこそ、それぞれのやり方で私に愛情を注いでくれたのだと思う。
育ててくれたのがTちゃんだけだったら、今の私はいない。甘やかされっばなしの環境で大人になるまで育てられてしまっていたら、私はきっと自分では何もできない人間になっていたと思う。困ったときは全部周りに任せて自分は何もしない、わがままな大人になってしまっていたかもしれない。そんな姿になった自分を想像すると、少しゾッとする。
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これからもっと、2人からたくさんのことを学ぼうと思っていた。でも、もう1人の母親である祖母は、数年前に霊山へ旅立ってしまった。私以上に悲しみが大きかったのがTちゃん。祖母の実の娘であるTちゃんは、たった1人の母親を亡くしたショックで10kg痩せてしまった。いつも笑顔のTちゃんがずっと泣いていた。
悲しみに暮れながらも、Tちゃんはいつものように家事をしっかりこなす。私は仕事が手につかなくなるくらい体調を崩したのに、Tちゃんはそんな様子すら見せずにいる。そういえば、祖母もはいつもそんな感じだった。「少しくらい頭や腹が痛かろうが、歯を食いしばって働くんだよ」とよく言っていた。そんな祖母に育てられたTちゃん。やっぱり"母は強し"なのかもしれない。
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今、私は祖母にできなかった分、Tちゃんに親孝行中。連休はなるべく帰省して一緒に家事をしたり、整体並みに時間をかけてマッサージしてあげたり。とにかく色んなことをしてあげたくて、たくさん行動する私。それを見たTちゃんから「せっかく帰って来たんだから、ゆっくりしてな」と、いつも言われてしまう。
私を大切に育ててくれた、大好きなTちゃん。残念ながら、ずっと一緒というわけにはいかない。祖母のように、必ずお別れのときが来てしまう。だからこそ、後悔しないように恩返しをしていきたい。全部返し切るまでには、まだまだ時間がかかりそう。「120歳まで生きる!」とTちゃん本人が宣言しているので、少しずつ私にできることをしていけたらと思う。