「お父さんとお母さん、どっちに似てる?」という話になった時に、私は必ず「お父さんかなぁ」と答える。
見た目は大人になるにつれて母親に似ていると言われるようになった。しかし中身の母親要素は感情的であるというところくらいで、他はそっくりそのまま父親譲りの娘である。

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まず、食べ物の好みもあっさりな味を好む母親と弟とは真逆でこってりした味付けのものが大好きだ。

家族4人でファミリーレストランに行くと、必ずあっさり派とこってり派で綺麗に分かれる。あっさり派の2人はポン酢とか大葉とかがメニュー名に入った、口の中がさわやかになるようなものを頼む。私と父親はといえば、チーズハンバーグとかカツとかこってりした脂っこいものを頼みがちだ。

私は7、8年前に摂食障害になってカロリーや脂質を気にし出してからは、本来の好みをなるだけ抑えて、あっさり派へ鞍替えしたが、たまに無性に食べたくなる時期があって、そういう時はまんまとこってり派に戻る。

デザートを頼むときも、チョコレートパフェとかチーズケーキとかとにかく濃いものが好き。あっさり派の様子を見てみると、レモンジェラートとかいちごジュレなんて更に口の中がさっぱりしそうなものを食べている。

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食の好みと性格に相関があるかどうかは分からないけれど、あくまでもうちはあっさり派が社交的であっけらかんとしており物事を深く考えないタイプで、こってり派が内向的で恥ずかしがり屋で物事を深く考えるタイプだ。

私と父親は、人付き合いが苦手でよく本を読むというところも似ている。
話しかけられたら普通に話すのに、自分から話題を提供することがない。だからリビングで2人の時はほぼほぼ滅多に互いに口を開かない。でもどっちも寂しがりやだから自室にいることはせず、1人を回避するためにリビングでスマホを見たり本を読んで過ごす。

そこにあっさり派のどちらかでも加われば話題を提供してくれるのでありがたいことこの上ないのだが、たまにうるさく感じてしまう。
特に母親は声のボリュームが大きく話すのが好きなので、ただ孤独回避のために本を読みたいからリビングに来ているのに……と思うこともたまにある。そういう時は、父親が「ちょっと小さく喋って」と言ったり私が直球に「うるさいよ」と言ったりする。客観的に見たら私と父親の行動はまあ自分勝手で、自己中心的だ。
そして、2人とも内弁慶で家でだけキレ始める。

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でも、そうでもしないと生きていられないのだと思う。自閉的で深く考え込む癖がある2人だから、外に出たら異常に神経を張り詰めて色々と頭を働かせながら考えて行動する。
"1人になりたいのに、1人はいや"というアンビバレントな心までもを譲り受けた。

26歳になろうとしている娘の私は、6年間に及ぶ遅れすぎた思春期がやっとこさ終わりの兆しを見せ始めている。

一度私の暴言によって優しい父親を泣かせてしまったことがあり、ずっと後悔している。謝りはしたものの、あまりにもひどい言い草だった。親泣かせの女であることをここに恥じる。

20歳くらいまでは父親と2人でご飯を食べにったり、本屋に行って本を買ってもらったりして、割と仲が良かった。瓜二つだからこそ分かり合えるところもたくさんあり、同族嫌悪で憎らしく感じるところもある。

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ヌートリアというカピバラにも似た動物を、あなたは知っていますか。

ヌートリアと調べると害獣とか迷惑動物とか、人間の都合でそんなことを言われている。追いつめられたり興奮したりすると噛み付いて暴れると言われているけれど、普通にしていれば穏やかで大人しく、むしろ親しみやすく見える。
私たち父娘は、まさしくヌートリアなのである。
そのことに気付いた私は、いつの頃からかペンネームにヌートリアを冠するようになった。

そろそろ親泣かせから親孝行へと高跳びしたいものである。またいつか以前のようにチーズの乗ったハンバーグを2人美味しく笑って食べたい。