私の出身校は元男子校なのもあって、何故か女子が出来ないことが沢山あった。選べる運動部は男子の半分以下。剣道とテニスと卓球と陸上のみだった。

太るのを大変に恐れていた女子高生の私は、棒状の物を振り回して暴れるのが不向きだと悟り、ただ走り回るだけの陸上部に所属していた。本当はサッカーや柔道もしてみたい。女子の人数が少ないからって酷い仕打ちだとよく友人たちと話したものである。

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これに関しては先生に抗議したが、サッカーと柔道は女子がやるには危ないからとか何とか言い訳をして濁された。我々には蹴鞠と掴み合いが許されなかったのだ。
ブツブツ文句を言いながらも、私は広くも狭くもない運動場を走り回る陸上を続けた。

だがしかし、どうしても許せないことが一つだけあった。それ以外のどんな仕打ちも我慢しよう。男子だけ給食が大盛りではないかとか、男子だけ靴下が指定じゃなくていいとか。
それは許そう。

しかし応援団に女子が入れない事実だけは許せん。

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応援団は言わば体育祭の花形である。応援団が雄叫びをあげただけで、会場が湧く。大人も子供も先生も、良く考えたら若造が暴れまわるだけのこの祭りを大変楽しんでいた。それもこれも全部応援団のお陰である。体育祭を完成させるのは応援団なのだ。

その応援団になれない。私はショックのあまり練習予定の応援団に突撃して和太鼓を無茶苦茶に叩き、取り押さえられた。
私の奇行を見た女子たちは「確かに応援団に女子がなれないのはおかしいよね」と言った。
しかし誰一人として先生に抗議するものなどいなかった。

私は早速職員室に突撃した。突如現れた女子高生に先生は面倒くさそうに対応してくれた。
私は如何に自分が応援団になりたいか、女子が応援団になれないことがどれほど酷いことか熱く語った。私の演説を一通り聞き終わった後先生は「応援団はさらしを巻いて踊るから、女子にそんな恰好させられない」と言ってさっさと逃げようとした。

そんなの別の衣装を用意すればいいだけの話しである。彼は面倒だから逃げようとしているのだ。「嫌だ、応援団になるんだ!」と少年漫画の主人公のように叫んでいる私の相手を、それ以上先生はしてくれなかった。
先生がダメだと言ったらもうそれはダメなのだ。それが学校の掟である。子供出来ること何て限られている。

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あまりに私が悔しがっているので、気の毒に思った応援団たちが、私に団の踊りを教えてくれた。男子たちも「女子だけ応援団になれないのは変だよね」と言ってくれた。みんなどこかでおかしいと思ってくれていたのか。変だと思っているのは自分だけではないとわかった。みんな同じ思いだと気付くと嬉しくなり、調子に乗って団長の羽織を貸せと言ってみたが、それは許してくれなかった。

応援団の踊りはかなり難しく、私はいつまでも覚えられなかった。性別関係なく、私が男子だったとしても応援団に選ばれなかっただろう。
しかし団のマスコットとして、体育祭の本番まで応援団と一緒に練習することが許された。
先生たちは何故か男子に混ざって下手に踊っている私を見ても、何も言わなかった。

もちろん体育祭で、私が応援団として表舞台に出ることはなかった。体育祭本番の日、団員席の影から応援団が踊っているのを見ていた。

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みんなどこかでおかしいと思っていたのだろう。でも誰も声をあげなかった。
私が声をあげたが、先生は拾ってくれなかった。
大人になった今でも、秋になると「あれはおかしかったよな」と思い返している。
私のような思いをする女子高生がこれ以上増えないことを祈るばかりだ。