お祝いと聞くと、最初に思い浮かべるのは誕生日である。私の誕生日は秋。秋の中でも、紅葉が始まる少し前の生まれだ。
この季節になると、私の地元では運動会が開かれた。多くの地域で馴染みのある、秋の運動会。残暑厳しい中で練習をして、残暑が落ち着きそうな頃に運動会が開かれる。ちょうどその頃、私は誕生日を迎えるのだ。
なぜ誕生日と運動会が関係しているかというと、我が家のお祝いの仕方が大きく関わっている。
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我が家では、誕生日を迎えた家族がいると、外食をする風習があった。誕生日を迎えた人が食べたいものを食べに行くので、前日までにリクエストをしておくのが恒例だった。
しかし、私の誕生日はときに私の意見が反映されないことがあった。それが運動会だ。
運動会当日もしくは予備日に誕生日が当たることが多かった。母親は早くからお弁当を作り、父親はテント張りの手伝いに向かう。私はいつもの時間に起きて、いつも通り学校へ向かう。いつもと違うのは、休日の朝であることと、朝食がお弁当の残り物だということ。
イレギュラーな朝に、今日は運動会だということを実感しながら、忘れ物がないように持ち物を確かめて手提げかばんを持った。荷物が軽いことに少し違和感を覚えながらも、終わった後のイベントに心を踊らせた。
ちゃんと晴天になれば、日差しは容赦なく降り注ぐ。残暑が和らいだ時期であるはずなのに、暑い、の一言があちらこちらから聞こえてくるくらい暑い日だ。曇りでもじんわりとベタつく汗が私のまわりに張り付いている。
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誕生日を祝うのは、この日の夜。私の誕生日を祝うために、外食に出かけるのだが、向かう先は温泉だ。大衆浴場のような、なんちゃらスパのようなところに向かい、汗を流す。
食事は、併設されているレストランや、近場にある商業施設のフードコートだ。
ここで疑問に感じてほしい。誕生日なのは私だ。しかし、温泉に行きたいとは言っていない。我が家の風習は、家族でご飯を食べることなのだから。
疑問に思った私は、母親に聞いてみた。なぜ私の誕生日に温泉に行くのか、と。答えは、汗でベタベタになっているため全員でお風呂に入ってしまったほうが早いこと、そして、朝からお弁当を作っていたことで夕飯を作る気力が湧かないことだった。
子どもながらにあごが外れるかと思うくらいあっけない理由。さすが我が家族と思う反面、誕生日というイベントを巧妙に使った母の意向だったのだとわかった。
お祝いとは、祝われるべき主役は私であるはずだ、と何度も確認した。
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私の誕生日は、こんな祝われ方が何度かあったので、数回経験すれば悟れるようになった。今日は誕生日と運動会が重なっているから、温泉に行くんだな、と思う朝。いつもの温泉なら、今日は何を食べようかな、など慣れてしまえば楽しむ方法を考える。
私以外の家族は、大型のイベントとかぶることは少ないので、私のように温泉に連れて行かれることはない。食べたいものをリクエストすれば、家族で食べに行ける。
ただ、私の誕生日がこのような祝われ方をするのに納得できてしまった私は、特に抵抗せず受け入れられた。
もちろん、リクエストが叶ってご飯に行けたときもある。日程の都合上、振替休日や当日が休みになったときは恒例の食事に出かける。温泉には行かない。当然、温泉をリクエストすれば行くことはできるが、ここまで流れができていたらわざわざ行きたいと言うことがないのはわかってもらえるだろう。
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私が印象に残っているお祝いの日は、誕生日である。運動会と近い日にちに誕生日を迎えたために起こる運命。面白いお祝いの仕方であり、我が家らしいとも思うが、やはり小学生にとっては、好きなものを食べられる方が幸福感はあった。
それでも納得できてしまう、運動会のあとの温泉。自宅で過ごすよりも早くお風呂を済ませられ、夜のドラマに間に合うのだから、とても有意義な1日を過ごせた気になった。
今も印象深い、子どもの頃の思い出である。