週末は父と過ごす時間が多かった。

工場で働く土日休みの父と医療現場で働く不定休の母。

父は釣りが好きだった。
車で10分ほどのところにある海に毎週のように釣りに出かけた。

道中の釣具店で餌を買って、スーパーでおやつを買ってもらって、アジやキスを釣っては持って帰って刺身や唐揚げにして食べた。

そんな週末が私は大好きだった。

◎          ◎ 

中学3年生の時、両親は離婚することになった。

そこで知った衝撃の事実、父はDV男だったらしい。
心の底からショックだった。

確かに思い返してみればよく母や兄や私を殴っていた。
酒を飲んで人が変わったように。

でも私はそれが普通だと思っていた。
どこの家庭もそういうもんだと思っていた。
だって週末の私だけが見る父はとてもいいお父さんだったから。

DVとは本当に怖いものだと思う。
実際殴られたりけられたり罵られているのに、いい思い出ばかりが浮かぶのだ。

だけど父と離れて10年たっても、夢で何度も父に殴られて目を覚ます。
お風呂で髪をつかまれて沈められて目を覚ます。
お前の髪の毛が落ちていて気持ち悪いから拾えと言われて、髪の毛が拾えなくて泣きながら目を覚ます。

優しい父だったと思い込みたい気持ちと、そうじゃなかった現実が、心の中でぐちゃぐちゃになって気持ち悪くなる。

◎          ◎ 

毎年父の日になるたびに辛くなる。
実家に帰っているの?両親心配してるんじゃない?
周りに言われるたびに心が激しく悲鳴を上げる。

父は私のことをどう思っていたんだろうか。

本当に気持ち悪いと思っていたのか。
あの週末の時間は何だったんだろうか。
お酒が悪かったんだろうか、あれが本性なのか?
父は私のことを1ミリぐらいは愛してくれていただろうか。

◎          ◎ 

それが関係しているのかいないのか、私が好きになる男はどこか父に似ていた。

だいぶ冷たくてたまに思い出したようにやさしくて、その少しの優しさだけが私の記憶に残る。
ほとんど依存のような恋愛。

私自身はひどい扱いを受けて当たり前。
だって父は私が気持ち悪いって、母は私を金食い虫って呼んでたから。

血のつながった両親がそうしたんだから、赤の他人が私を大事に扱うわけがない。

それを無理やり証明するかのようにクズ男にはまっていった。

ほらねやっぱり男なんて酷いやつしかいないのよ。
みんなにこにこして人に言わないだけで。

結局浮気するし酷いことするし言うし、私を信じてくれないの見てくれないの。

◎          ◎ 

だけどそんな私に転機が起きた。

どん底にいた私に差し込んだ光だった。

ひと際光って見えたその人に思わず声をかけて、あれよあれよという間にお付き合いがスタートした。

グラスが空いてたらお茶を入れてくれて、段差が来るたびに足元注意ねって言ってくれて、私の気持ち悪いといわれた部分を好きだと言ってくれる。
とってもとっても変わった人。

ファンタジーの世界にしかいないと思っていた、私の知ってる言葉で表すのは難しい素敵な人。

今までは自分を大事にしてほしいって、父が母がやってくれなかったことをやってほしいと思って、埋めてほしいと思って選んでいた。

でも人生で初めてこの人のことを大事にしたいと思った。

同時にそのために自分も大事にしようって思えた。

◎          ◎ 

父との良くない思い出を思い出さないように、いい父親だったはずって思い込めるようにしていたけど。

これからはいい思い出もそうじゃない思い出もすべて私の人生だって、胸を張って自信をもって生きていく。

これが私と父との思い出。