初めて会った彼は、とても感じの良い人だった。
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マッチングアプリを始め一ヶ月。緑のしげるゴールデンウィークに、上野のカフェで気になる彼と初対面した。
アプリでマッチングした時も、プロフィール写真の爽やかな笑顔に純粋に惹かれたし、その後の何回かのチャットのやりとりも、丁寧で、徐々に会ってみたい気持ちになった。
お店の前で待つ私に、向こうからやってきた長身の彼は、「はじめまして。なんだか、雰囲気がそうだな、と思いました」と声をかけてきた。
男性なのに笑顔で雰囲気も柔らかで、きっと、気持ちが表情にでる人なんだろうなと思った。
アプリで連絡している時もだが、実際初対面で会った時も、安心感のある人柄だった。
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その後、1ヶ月後———。
なんだろう、この安心感は。
彼と会って話したり、彼と連絡先を交換してLINEしたりすると、なんだか家族のような恋人のような安心感に包まれる。
私たちは遠距離で、まだ2回しか会っていない。
次に会うのもお互いの仕事の関係で、2ヶ月後だ。
確実に言える、まだ恋人ではない。
でも、いったいなんなんだろう。
見ず知らずのアプリで出会った1人に、大きな安心感や安定感を感じてしまうのは…。
「彼の素敵なところ10個あげなさい」と言われたら、10個どころか20個私は頭の中であげられる。そして、今にも、それを相手に自然に伝えたい、と思ってしまう。
でも、今の遠距離の状況で、それをLINEで送ってしまったら、なんだか違う気もした。
私が心で勝手に思っているだけで、彼は実際、どの程度の親密さを求めているのか、その相手が私なのかも、まだわからない。
そんな風に確信が持てない時は、きちんと会って、お互いをもう少し知り合ってから、きちんと実際に伝えようと思う。
相手をよく見ず、自分の想いだけで距離感を間違えて詰めてしまうと、成立するものも成立しなくなってしまう。これは、自分が追われる立場の恋愛の時に、しばしば思っていたことだった。
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正直、今の遠距離の彼は、私をどのような存在だと思っているのかはわからない。
でも、明らかに彼の家庭は、私自身の家庭のように自由で朗らかで、きっと彼は大事に育てられてきたんだろうなというのは口にせずとも解る。
はじめて挨拶された時も、一緒に食事をしている時も、離れていて夜にLINEをしている時も、彼が「お育ちがいい」というのは、常々伝わってくる。
一つ、確実に言えるのは、彼はずっと都内の男子校で育ち、私はずっと都内の女子校で長い月日を過ごしてきた。
だから、もしお互いが想いあっていても、相手の手のとり方はよくわからないし、でも、だからといって、距離を縮める機会がどちらからか差し出されれば、意固地になって、それに興味のないそぶりをしたりはしないほどの年齢だということだ。
意志があっても、行動に移さなければ、距離は縮められないものだと自分に言い聞かせる。