一緒に乗りたいと言ったボートも、2人で行きたいと雑誌を眺めた旅行も、時間ができたら飲みに行こうと誘った居酒屋も、どれも全部「約束」からは程遠くて、何もかもが私の一方的な押しつけだったことに気が付いたのは、彼の気持ちがもう「上がる」ことはないと悟った時のことだった。

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彼の気持ちの変化は嫌になるほどハッキリしていた。毎晩恒例の電話は一切なくなり、1日に数十通とやり取りしたメッセージは1日23通になり、それも返信は毎回「うん」ばかりで、早く一緒に暮らしたいとさえ言っていたのに、仕事を理由に会えない日が1か月以上も続いた。

仕事人間なのは付き合う前から知っていたが、それにしても私との時間を蔑ろにされているような虚しさがどうしても拭いきれなかった。だって、前は忙しくても会ってくれたじゃない。少しでも時間ができたら電話をかけてくれたじゃない。用事がなくても会う時間をつくって、何の意味ももたない会話で笑いあったじゃない。

全部つい数か月前のことだというのに、遥か昔のことのように思える。きっとこんな風に変化していくのが恋人として普通なのだろう。いつまでも付き合いたての状態をキープできるとは思っていない。

それにしたってあまりにもガラリと変わってしまうものだから、私から遠ざかるアクセル全開の彼の心に、私の乙女心は追いつくことができなかった。それどころか、日に日に2人の距離は増すばかり。挙句の果てには「会えなくても寂しくない」とまで言われ、私の孤独は心の距離に比例して増していく毎日だった。

何が辛いって、「寂しいと思ってもらえないこと」が何より寂しいのだ。忙しい中でも返信をくれるだけで喜びを素直に感じていたあのころの自分はどこに行ってしまったのだろう。たとえ「うん」の一言が続いたとしても、連絡をくれるだけで愛されている証拠だと思えていたはずなのに。

返信が来ないことには次の話題を振ることもできず、言いたいのに言えないことが日に日に増えていった。会えない時間と離れる距離、彼が私に何を期待し、何を求めているのか、正直もうわからなかった。

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そんなある日、いつも通りにメッセージをやりとりするなかで、思い切って「私に直してほしいところある?」と聞いてみた。

そもそも、彼の心が以前より離れているのは事実だが、何が原因なのかハッキリとは言われていないのだ。元々飽き性な彼が他のこと(他の女)に心を奪われたのならもう救いようがないとしても、私にも何か原因があるのではないかと踏んだのだ。

とても勇気がいることだったが、大事なことである以上、避けることなんてできなかった。

彼からの返信は思った以上に早く、「特になにも」のみだった。ん?これは素直に何もダメなところがないのか、もしくは考えるのも相手にするのも面倒ということなのか。喜ぶべきか悲しむべきか、悩んだ挙句に私が出した答えは「気にしない」だった。

だってなにかを指摘されたわけでもないし、こんな風に聞いてちゃんと答えてくれたし、なによりそれより彼の彼女は私だし。何を悲観的に思うことがあるのだ。これは立派な愛情表現じゃないか。

結局、何を言われても私は彼のことが好きなんだな、と思った瞬間だった。

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彼との会話で何も解決はしなかったが、彼はこういう人なんだと改めて知る機会にはなったと思う。付き合った頃より、彼の心が私より3ミリ以上離れたことも多分事実で、これから先もずっと付き合っていけるのかなんて正直わからない。

だから、私が少しずつ変化していかなきゃいけないんだ。人を変えようなんて、そんなの図々しいこと甚だしい。私は彼の全てが好きなのだから。少しずつ変わる私、絶賛成長期。いえい!