私は大学時代、宇宙の研究をしていた。ロマンあふれる分野の中で割と身近な太陽について研究していた。

元々宇宙の研究をするつもりで大学に入学。「せっかく宇宙の勉強をするなら宇宙の構造について研究したいな」なんて入学当時の私は思っていたんだ。でも、この人から教えてもらいたいと思った教授が太陽について研究をしていたから、私は当初は選ぶ予定ではなかった分野の研究室に入った。

研究室に入って、前期は太陽についてと研究に使うプログラミングを勉強して、かなり忙しい日々を送った。ついていくのに精一杯だった。

後期になって始まった卒論のための研究。太陽磁場についての長いプログラムを理解して、より運用しやすいように書き換える。教授を呼び止めては質問し倒して、それでもわからなくて、脳みそには限界があることだけがはっきりとわかった。嫌でも時間は過ぎていくし、山のように溜まったタスクをなんとかこなして本当にギリギリ卒業できた。

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卒業後は大学院に進学した。でも半年で大学に行けなくなった。授業に、研究に、周りの学友たちのレベルに、全然ついていけなくなったんだ。あまりの自分の不出来さに自己肯定感はズタズタ。それでもやらないといけないこととやりたいことが溢れて完全にキャパオーバーした。

その結果、私は鬱になった。誰のせいでもなく、ただ自分で自分を追い込んだ結果だった。何もできなかった期間、3年。新卒で社会には出られなかった。

鬱が落ちついた頃に結婚して主人の地元での暮らしを選んだ。さすがに働かないとと思い、就職先を探した。

主人の地元で働くとなると、自分の強みを活かすとか言っている場合ではなくて、慌てて決めた就職先。契約社員として働いたけれどしばらくして仕事のストレスで鬱が再発して仕事を辞めた。それからずっと働いていない。働けるだけのエネルギーが私にはもうなかった。

大学院をやめてからもう9年が経つ。私はこの9年間ほとんど仕事はできなかったけれど結婚して鬱が治って子供が産まれた。人生のステージは前向きに進んでいる。

それでもずっと私の中に、「大学の頃あんなにがんばったけれど結局あまり役に立たなかったな」という思いがあった。しかし、この思いはここ数年で無くなってきた。

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今思えばキャパオーバーして鬱になったことさえ人生で見れば大きな学びだったと気が付いた。自分のキャパがわかったから今は限界を迎える前に休むことができる。この知見のおかげで産前産後にメンタルがぶれたときにもあまりひどい状態にならなかった。

辛い経験と学びはここに活きているのかと、特に子供が産まれてすぐの頃によく思っていた。鬱になって、やりたい勉強もできなくなって、大学もやめてしまって、人生を無駄にした気がしていた。でも、むしろ経験していて良かったとさえ、今なら言える。

最近よく文章を書くようになった。調べながら書いていて、ふと気が付いた。自分で知りたいことを調べる力は、大学で苦労したから身についたものだということに。

自分が欲しい情報を狙って調べられることは、日常で地味に役立つスキルだ。大学で習ったことを今すべて覚えているかと聞かれたら、むしろ覚えていることのほうが少ないけれど、わからないなりに必死で本やネットで調べた時間は、その作業は、私の今を少し豊かにしてくれている。

もう一つ、役に立ったというよりは、これから役立てようと思っていることがある。プログラミングだ。あの頃は逃げてしまったけれど、最近もう一度やりたいと思っている。

自分でもこんな未来は想像していなかった。ただ、少しだけ生活の中に自由に使える時間ができて、やりたいと思ったのがプログラミングだった。あの頃よりマイペースに納得しながら勉強して、いつか自分のホームページでも持てたらいいなと思っている。

大学時代に残した大きな未練は、今日の私の小さな野望に変わった。

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大学時代は概ね楽しかった。けれど終わり方があまりに良くなくて、自分の中で苦い思い出だったし、やってきたことは無駄だったと思い込んでいた。

でも、想像以上に私はいろんなことを学んでいて、それらすべてが今にきちんと繋がっている。無駄なんてなかったと今は自信を持って言える。

勉強は苦しいけど楽しいものだ。だからこれからも、私は学ぶのを止めない人間でいたい。