「おはようございます!」「こんにちは!」

小学生の頃、私は人に会うたびに笑顔で元気に挨拶していた。ときには人だけでなく、飼い主さんと一緒にいる犬にも挨拶していた。驚かれたけれど「犬にまで挨拶して偉いね」と褒められ、嬉しかったのを覚えている。

登下校中や散歩中、買い物中。祖母や母から「人に会ったらきちんと挨拶するんだよ」と言われていたので、いつもそれをきちんと守っていた。大人になった今も帰省すると、近所を歩いている人に挨拶するようにしている。そんな私にも、あまり挨拶できない時期があった。

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中学生の頃、私はいじめに遭っていた。繊細な私にとって、言葉の暴力は鋭利な刃物と同じ。心がボロボロになって、死にたくなってしまうこともあった。いつの間にか目立たないようにしようと、人と関わるのを避けるようになった。滅多に笑顔を見せることはなく、挨拶するのも最小限になってしまった。

そんな私にある日、転機が訪れた。それは、中学2年生になって初めての委員会決めのとき。じゃんけんで負けてしまい、希望していた図書委員になれなかった。私に残された選択肢は、体育委員か風紀委員。もう実質、1択じゃん……。ということで、私は半年間、風紀委員として活動することになった。

他の生徒たちが制服や体育のジャージを崩す中、私は制服のスカートの丈が長いまま。夏は体育着のシャツをズボンにイン。廊下を歩いていると、生活指導の先生が周りの生徒たちに「犬屋敷を見習えよ~」とよく言っていた。

目立つことは苦手だけど、先生たちからは生徒の模範として信頼されている。活動を続けていけば、また元気に挨拶できるようになるかもしれない。私は、頑張ってみることにした。

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毎週月曜日の朝、他の風紀委員と一緒に生徒が校門を通るたびに挨拶。初日は緊張からか、あまり大きな声を出すことができなかった。登校してきたいじめっ子たちにバカにされ、今までの怒りが込み上げてきたけれどグッと堪えた。でも、その後すぐ、彼らは服装の乱れを先生に叱られていたので、個人的にスッキリした。

1ヵ月程経つと、サボる生徒が出てきた。同じクラスのちょっとグレている男子S君も数回サボっていて、月1の報告会では先生から注意されていた。でも、私が真面目に参加しているのを知って「犬屋敷さんが頑張っているなら」と、眠そうな顔をしながらもS君は毎週来てくれるようになった。

3ヵ月を過ぎた頃から、周りにかき消されないくらいの声で挨拶できるようになっていた。あと、風紀委員の活動のおかげか、クラスメイトをはじめ、別のクラスの子たちからもよく声を掛けられるようになった。

「いつも頑張ってるね!」
「笑顔で挨拶してくれて、元気をもらえるよ」

みんなから掛けられた言葉で、自分が笑顔で挨拶できていることに気づいた。

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あっという間に半年が経ち、委員会の活動は終わりを迎えた。「ちょっと嫌だな」と思いながらなった風紀委員。私が変わるきっかけをくれた。また笑顔になれたし、しっかり挨拶できるようになった。挑戦してみてよかったなと思う。まだいじめっ子たちに心ない発言をされることはたまにあったけれど、それを相手にせずに、涼しい顔でスルーできるようになった。どうやら、活動の中で私の心も強くなったらしい。

社会人になって、挨拶できる大人が周りから減った感じがする。私は会社で人に会うたび挨拶するけれど、返って来ない人がまあまあいる。オフィスでは普通に話すけれど、廊下などではみんなきっとオフモードなのかもしれない。それでも私は、いつか挨拶を返してくれると信じて、笑顔で元気に挨拶を続けようと思う。